イニエスタ「クレイジー」と評したPK戦末に神戸がゼロックス杯初V。なぜスペイン至宝の存在感が際立っているのか?
3度も奪ったリードを、ことごとく追いつかれた。3-3のまま前後半の90分間を終えても決着がつかず、大会規定によりそのまま突入したPK戦では、先蹴りの横浜F・マリノスの3人目から9人が立て続けに失敗。Jリーグの主管大会における、不名誉な新記録も打ち立てられた。 ミスの連鎖を断ち切ったのは、ヴィッセル神戸の7人目へ志願した元日本代表のMF山口蛍。マリノスのキーパー朴一圭の逆を突く、強烈な一撃をゴール右隅へ突き刺した直後に、ハーフウェイラインで戦況を見守っていたキャプテン、アンドレス・イニエスタは笑顔で山口のもとへ走っていった。 「すごく幸せな気持ちだった。1ヶ月前にタイトルを獲ったばかりなのに、さらにタイトルも獲ることができた。PK戦はちょっとクレイジーな展開になったが、PKは博打みたいなところもあるからね。最後にチャンスをものにできたことで、歩んできた道をこのまま突き進むべきだ、という自信になった」 リーグ戦王者と天皇杯覇者が埼玉スタジアムで対峙した、8日のFUJI XEROX SUPER CUP。シーズンの到来を告げる開幕前の風物詩へ、新国立競技場のこけら落としマッチとなった元日の天皇杯決勝で鹿島アントラーズを撃破し、悲願の初タイトルを獲得したヴィッセルは初めて臨んだ。 そして、神業のようなスルーパスで新加入のFWドウグラスの先制弾を演出し、戦況を動かしたのがイニエスタだった。前半27分。敵陣の左サイドでパスを受けると、そのままドリブルを開始する。目の前にはチアゴ・マルチンスと、森保ジャパンに名前を連ねる畠中槙之輔が立ちはだかった。
マリノスが誇る鉄壁のセンターバックコンビだけではない。後方からはキャプテンのボランチ喜田拓也も迫ってきていたが、ボールを奪われるような隙は見せない。そして、ペナルティーエリア付近に差しかかったところで意図的にスピードを緩め、右側へカットインする動きに転じた。 このとき、マルチンスと畠中の足が一瞬だけ止まる。2人の間に生じたボールひとつほどの空間を、FCバルセロナとスペイン代表で一時代を築き上げたレジェンドは見逃さない。すかさず右足からパスを、それも相手のひざのあたりに浮かせて、寸分違わずにわずかな隙間を通した。 急から緩、そして再び急へと時間を自在に操っただけではない。縦と横の動きに高さも加えた立体的なプレーで、自分を取り囲む相手全員の虚を突いた。あうんの呼吸で背後に走り込み、鮮やかなトラップから豪快な一撃を叩き込んだドウグラスを、イニエスタは弾けんばかりの笑顔で祝福した。 「サッカーファンにとっては、非常に面白い試合になったんじゃないかと思う。両チームともたくさんのチャンスを作って、ともに勝利するチャンスがあったからね。最後は自分たちにとって喜ばしい形で終わったけど、自分としてはこれからもしっかりと身体をケアしていって、さらに最高のパフォーマンスをみなさんに見せられれば、と思っている」