底を突いた余剰貯蓄、米経済に忍び寄る個人消費急減速の足音
(ブルームバーグ): 新型コロナ禍の時期に積み上がった家計の貯蓄は過去数年間、米国の消費者が物価高を乗り切る助けとなってきた。そのクッションがすり減っていることで消費の活力が失われ、経済全体に影響が及びつつある。
家計債務の返済遅延は増加しており、企業の決算発表では消費者の慎重姿勢を指摘する声が相次いでいる。5月の米小売売上高は前月比0.1%増にとどまり、前月分は0.2%減に下方修正された。28日に発表される5月の実質個人消費支出(PCE)についてエコノミストは0.3%増を予想しているが、これはガソリン価格の下落が寄与したとみられる。前月の実質PCEは0.1%減と、予想外のマイナスとなっていた。
個人消費の粘り強さはここ数年、米経済にとって揺るぎない屋台骨となってきた。消費を支える重要な役割を担ってきたのが堅調な労働市場ともう一つ、新型コロナのパンデミック期に膨れ上がった約2兆ドル(約320兆円)の余剰貯蓄だった。
しかしサンフランシスコ連銀の調査によると、こうした余剰貯蓄は3月時点で完全に枯渇。個人消費の持続性に対する懸念が高まっている。
サンタンデールUSキャピタル・マーケッツのチーフエコノミスト、スティーブン・スタンリー氏は「パンデミック期に家計が頼れた余剰貯蓄のクッションは、もはや大部分が失われた」と指摘。「そのため、家計の勢いは基本的に現在の収入に左右され、それは必然的に労働市場の動向に応じた形になる」と述べた。
5月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比27万2000人増加し、エコノミスト予想の全てを上回る伸びとなった。しかし雇用のペースは減速しており、失業率は上昇に転じている。
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今のところは労働市場の底堅さが消費を下支えし、インフレ抑制に取り組む米金融当局に政策金利を高水準で維持する余地を与えている。エコノミストも家計のバランスシートは全体的に健全だと評価。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事ら一部の当局者は、経済の一部で圧力が増していると認めている。