<只見・春に駆ける>’22センバツへの軌跡/上 チームの武器は全力疾走 「1番目指す」声掛け合い努力 /福島
すべては、この一本から始まった。昨年9月22日、会津坂下町のBMI鶴沼球場で開かれた秋季県大会3回戦。只見は、2020年秋ベスト4の相馬東を相手に互角の戦いを演じていた。1点を追う九回裏1死走者なし。6番の主将、吉津塁(2年)は6球目のカーブをはじき返した。 バットの芯に当たった打球は低い弾道で外野へ飛んだ。さらに中堅手のグラブをかすめて転がった。「走れ!」。球場に一塁コーチの大声が響いた。はっとした吉津は、無我夢中で、全力で、疾走した。 生還し、仲間と抱き合いガッツポーズした。同点に追いついた。スコアブックには、吉津にとって公式戦初の本塁打が記録された。 勢い付いた只見は延長11回に1点を追加し、サヨナラ勝ちを果たした。 「足は、特別に速いわけではない」。吉津は照れくさそうに笑うが、長谷川清之監督(55)ら首脳陣は「あの一本がなければ負けていたし、センバツ出場はなかった」と口をそろえる。 「このチームなら、何だったら1番になれる?」。根本修太郎顧問(25)が選手たちにこう問いかけたのは、秋季県大会の前のことだった。吉津らナインは考えた。 「全力疾走です」 チームとして出した答えだった。「今からでも1番を目指せるのは全力疾走だと思った。これを武器にするために、練習の時にも互いに声を掛け合い、努力を続けた」と吉津は振り返る。 チームとして掲げた「全力疾走」の目標。あの一本は、主将自らが、その目標を体現したものだった。 只見は4回戦も会津学鳳を相手に逆転勝ちし、春夏秋を通じて初のベスト8に進出した。21世紀枠の候補校となり、1月28日、センバツへの初切符を手に入れた。 出場が決まったその日、吉津は報道陣を前に、力強く宣言した。「チームのモットーである全力疾走を甲子園で徹底し、見ている人に元気を与えられるようなプレーをし、町を元気にしたい」。その目は、しっかりと前を見据えていた。 ◇ 春夏通じて初の甲子園出場を決めた只見。日本有数の豪雪地帯として知られる厳しい練習環境の中でも、必死に甲子園を目指し、一歩ずつ前進してきた。春に駆ける只見の軌跡をたどる。【三浦研吾】