「数分間のエールを」ぽぷりか監督「30年分の人生を食らえ、みたいな作品になった」 光と影の演出にも言及【第37回東京国際映画祭】
第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で11月3日、「数分間のエールを」が上映され、会場の東京・TOHOシネマズ日比谷で、ぽぷりか監督とプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏がトークを行った。 【写真たくさん】米倉涼子はオフショルドレスで美デコルテ披露 東京国際映画祭レッドカーペットの様子 同作は、ぽぷりか監督もメンバーのひとりである気鋭の映像制作チーム「Hurray!」が映像統括、「ラブライブ!」の花田十輝が脚本を手がけた68分のオリジナル作品。MV(ミュージックビデオ)の制作に情熱を注ぐ男子高校生と音楽の道を諦めた女性教師の出会いを軸に、物作りの楽しさと苦しみが描かれる。 藤津氏から、Hurray!がこれまで手がけてきたMVのルックで長尺の劇映画をつくることに最初不安はなかったのかと聞かれ、ぽぷりか監督は「不安はめちゃめちゃあった」と率直に答える。Hurray!の映像スタイルは、もともと自分たちが目指す映像を実現するには「自分たちでやるしかないのかな」と少数のチームでMVを制作しながらつくりあげてきたものだった。「数分間のエールを」では、オファーの時点でHurray!のこれまでの絵作りでというオーダーだったため、MVと同じ映像スタイルで長編をつくることができたという。 シンプルなストーリーを光と影の演出で見事に表現していることを藤津氏が称賛すると、ぽぷりか監督は絵コンテの段階から、主人公の(朝屋)彼方を順光、女性教師の織重(夕)を逆光で描いていたことを明かし、「95%はそうなっていると思います」と語る。下手(画面左)から上手(右)に視線を向けたり移動したりすると未来、その反対だと過去を暗示すると言われる上手下手(かみて・しもて)の関係についても、未来を見つめている彼方を下手から上手、過去にとらわれている織重を上手から下手の位置に配するよう意識したという。終盤に登場する海の夕景のシーンについて藤津氏から話題が挙がると、「最後は絵作りを変えたくて、あえてオレンジの色は最後まで使わないようにしていた」とぽぷりか監督は話し、「Hurray!のテーマカラーである黄色の空間でやれたら」という思いもあったことも語られた。 MVを題材にした映画にしたのは、物作りを描いた作品にする際、「自分たちに正直につくる」には自分たちが経験したものにするのが一番だと考え、その延長で舞台も自らの故郷である石川県に自然となっていったのだという。それゆえ、「1回しかできないような映画になったと思う」と話すぽぷりか監督は、「(自分たちの)30年分の人生を食らえ、みたいな作品になった」と笑う。 自らの人生を注ぎこむような作品づくりは何回もできるものではないため、今回と同じような作品をすぐにつくるのは難しいかもしれないと語りつつ、自身を「MVをやってきたこともあり、自分は職人監督的だと思う」と分析するぽぷりか監督。「これをやってほしいと言われて面白いなと思ったら全然やれると思うし、そのときに今回と同じように演出的にできる自信はあります」とも話し、藤津氏は「次回作は、もう少し複雑な(ストーリーの)劇映画を見てみたい」とリクエストしていた。 「数分間のエールを」は11月5日午後6時20分から、TOHOシネマズ日比谷で再上映される(トークはなし)。