相手が言ったことをそのまま反射して返すだけ!おとなしい人でも部下を動かす3つのしくみ【脳科学者が解説】
【しくみ(3)】「期待」と「やる気」は釣り鐘のような関係
仕事であれ、教育であれ、子育てであれ、人を動かす立場になったときに絶対にやってはいけないことがあります。それは、むやみに「期待しているよ」と伝えたり、やたらと能力をほめたりすることです。スタンフォード大学の研究でも、パズルが解けたときに「すごい。優秀だね!」とほめると、難しいことにチャレンジしなくなる傾向があることがわかっています。 なぜなら、もし次に難しいことにチャレンジして失敗したら、それは「優秀」でなくなるからです。「優秀さ」を保持するために、失敗しない簡単な課題ばかりをやるようになるのです。能力をほめるのではなく、努力をほめると「難しい問題」にチャレンジする率が高まることもわかっています。 相手を評価するときは、能力をほめるのではなく、「努力」をほめてあげることが大切です。これは動物も同じで、努力したときに報酬をあげると、その努力をもっとするようになります。脳科学的には、線条体と呼ばれる脳の報酬系が活性化するため、その特定の行動を促進することができます。 また、モチベーション理論で有名な米国の心理学者ジョン・アトキンソン教授の研究では、こんなこともわかっています。「期待」と「やる気」は釣り鐘のような関係で、実現可能性が0%でも100%でもなく、ちょうど50%くらいだと、もっともやる気が出やすいことです。簡単にできることや、絶対に不可能なことを「君ならできる! 期待しているよ!」と言われても、やる気はまず出ません。 たとえば、「君なら、東京タワーに必ず登れるよ! 大丈夫!」と励まされても、大きなやる気が出ることはないでしょう。努力しなくても簡単にできることは、意欲が湧かない傾向があります。一方で「あなたは標高約1万メートルのエベレスト山頂に登れる! がんばれ!」と言われても、やる気は出ません。登山家や冒険家ならまだしも、一般人にはあまりに無謀でゴールが大きすぎるため、「そんなことできません……」と言いたくなってしまうでしょう。 ですから、人のやる気を引き出すためには、実現可能性が50%前後のところを期待してあげるとよいと言えます。私が現場での数多くの経験を通して感じたのは、その人が実現できる60~70%くらいの確率のところを期待してあげると、さらに効果が高い傾向があるということでした(もちろん個人差はあります。その人が燃えるラインを探ることも大切です)。 自分だけではギリギリだけど、周りがサポートすることで実現できる、そのような部分を期待してあげると本人のやる気は高まりやすくなります。スポーツの世界でも、簡単にできることではゾーンに入りにくくなります。自分の能力を少し超えたところにゴールを設定してあげると、脳がよい状態に入りやすくなるのです。そのためにも、相手の能力や状態を理解してあげることが大切です。 相手の話を聞いてあげることが基本になるでしょう。 まさにこれは、内向型が得意とするところです。これこそ、内向型リーダーが行っているサーヴァント・リーダーシップのやり方の一つなのです。 西剛志 脳科学者