1億ドル超え大ヒットが続々!「アツい香港映画」が戻ってきた
● 香港映画発のワイヤーアクションが、撮影のデジタル化で進化 ワイヤーアクションは香港で独自に発展した世界に誇る技術で、今では米国や日本のアクションシーンでも普通に使われるようになった。調べてみると、テクミロンとは、デンタルフロスなどに使われている素材らしい。そのワイヤーが消せるようになった結果、撮れる「画」も変わったという。 「あと、香港でも2008年くらいまではフィルムで撮っていましたが、2010年代にはみんなデジタルに移りました。これによってポスプロ全体の作業効率は格段に上がりました」(谷垣さん) まぁ、これは世界の趨勢とも重なっているわけですよね……と思っていたところ、こんなエピソードも。 「デジタルな世の中になって、現場運営がすごく便利になりました。というのは、撮影中こっちでモニターを見ながらそれを撮って、「WhatsAPP」や「LINE」、「微信 WeChat」で役者さんのそばにいるスタッフに動画が送れるようになった。たとえば、僕なんかが『もっとパワフルに』と言葉で指示するより、動画で自分の姿を確認してもらった方が確実に効果的です。そして修正がすぐ効く。iMovieでその場で簡易的な編集もできるし。画期的でした」(谷垣さん) へぇぇぇぇ……モニターを見ながら怒鳴る監督と、それを伝えにセットの中にいる役者さんのところに走る助監督……なんて素人が想像する図式はもう古いらしい。
● デジタル時代、撮影スタイルはどう変わった? 「アクションってね、やっぱり安全にやらなきゃダメじゃないですか。そしてできた画面が危なく見えないといけない。だから、刀とかも本物ではない小道具を使うわけですが、それが偽物に見えてはいけない。デジタルならそれを本物にすげ替えることができるんですね。地面に柔らかいクッションを敷いて撮影しておいて、後で硬い地面にすり替えるとか……それがいい悪いではなくて、単純に選択肢は増えたということです。ただ、フルCGってのはまだ選択肢にはなりにくい。実際に人間がやってみせる必要性というのは逆にもっと高まっていくと思います」 ――その「実際の人間」ですが、「90年代が戻ってきた」と言いつつ、考えてみたら昔のジャッキー・チェンとかサモ・ハン・キンポーたちのように、家が貧しくて小さな頃から京劇学校に送り込まれてカンフーを学ぶ、なんていうことは今ではもうないですよね? となると、今のスタントさんはどこから出てきているんでしょうか? 「……実はね、日本でよく誤解されているんですが、ジャッキーたちが学んだのは単純にカンフーだけじゃないんです。彼らは京劇の役者になる訓練を受けた、つまり子役だったんですよ。カンフー使いではなくて優秀な子役。だから映画界でも通用した。でも、そういう学校はもう1974年頃に閉校してしまった」 ――ああ、そうでした。彼らの子供時代を描いた『七小福』なんて映画もありましたね……。 「香港が京劇の時代じゃなくなって学校が閉じられた結果、そんな彼らが大挙して映画界に流れ込んだ。彼らはフィジカルに鍛えられた役者だったから映画界にうってつけだったし、そのおかげで香港映画のアクションが飛躍的に伸びたというところもあると思います。今はもうあんな人材はいない」