「渋滞解消の切り札」のはずが事故の原因に!昔は全国に普及→今はお払い箱の「残念な仕組み」とは?
ドライバーにとって「百害あって一利なし」の渋滞を減らすべく、日本では数十年にわたって多様な対策が講じられてきました。その中には効果を発揮した施策もありますが、期待とは裏腹に「逆効果」となったものもあります。今回は、かつて渋滞解消の切り札として全国に普及したものの、結果的に事故増加などのデメリットをもたらした「残念な仕組み」について解説します。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一) 【実物写真】コレを見かけたら事故に要注意!? リバーシブルレーンの標識 ● 「渋滞解消の切り札」のはずが 「事故の原因」になる皮肉 今も昔も、ドライバーを悩ませ続ける「渋滞」。単にイライラするだけでなく、目的地への到着も遅れますし、ずっとシートに座っていると身体に負担もかかります。トイレに行きたくなっても行けず、辛い思いをすることもあります。 とはいえ、昨今は「ETC」の普及によって高速道路の料金所付近での渋滞が改善するなど、渋滞解消に向けた取り組みが進んでいるのも確かです。渋滞対策の一環で、車線が増設・延伸される箇所も少しずつ増えてきています。一般道でもバイパスの増設などが進んでいます。 一方で、実は1970年代から「渋滞解消の切り札」として期待を集めていたものの、効果を発揮できずに「期待外れ」に終わった仕組みも存在します。この仕組みは、道路の快適性や安全性を高めるどころか、逆に事故の原因になるという皮肉な結果を招きました。 かつて全国に普及したにもかかわらず、今は廃止が相次いでいる「残念な仕組み」とはどんなものでしょうか。今回は、その実態を解説していきます。
● 廃止が相次ぐリバーシブルレーンの 残念な実態とは? 結論から言うと、この「残念な仕組み」とは「リバーシブルレーン(中央線変移システム)」です。 リバーシブルレーンとは、全部で3車線以上ある道路の中央線(センターライン)を時間帯によって動かし、交通量の多い方向の車線を一時的に増やすことで、渋滞緩和を図る仕組みです。 例えば、3車線ある道路を、朝の通勤時間は「上り方面」が2車線、「下り方面」が1車線にする。夕方の退勤時間は「上り方面」が1車線、「下り方面」が2車線とする――などの運用が可能です。道路の上部には、青地に白で「中央線」と書かれた移動式の標識が配置され、時間帯ごとに移動して中央線を指し示します。 このリバーシブルレーンは、日本でクルマの渋滞が問題視されるようになった1970年代に普及が始まりました。読売新聞の報道によると、リバーシブルレーン「全盛期」である2000年度末の設置個所は35カ所。そこから一転、近年は廃止が進み、2024年現在の設置個所は18カ所のみとなっています(静岡県警の資料より)。 例えば、滋賀県大津市内で運用されていた「近畿最後のリバーシブルレーン」は2024年1月に廃止。静岡県静岡市のリバーシブルレーンも2024年度をめどに廃止される方針が決まりました。 関東圏では1970年代から今に至るまで、幹線道路の「中原街道」(※)にリバーシブルレーンが導入されていますが、今も生き残っている例は限られています。 ※東京都品川区の五反田から、東京都大田区丸子橋を経由して、神奈川県川崎市へと続く道路。 限られた車線を効率的に活用できるため、一見すると良策に思えるリバーシブルレーンですが、蓋を開けてみれば「わかりづらく、事故の原因になる」と不評を呼んでいます。導入箇所では交通事故が多発しており、国土交通省の調査によると、06年~09年におけるリバーシブルレーンの死傷事故率は、その他の3車線以上の幹線道路(高速道路を除く)の2.6倍になったそうです。 事故原因としては、中央線が移動していることに気づかないドライバーが逆走してしまうケースが挙げられます。また、走行する車線が片側2車線になっていることに気づかず(片側1車線だと認識)、第1車線(左側車線)から対向車線へと右折を試みたはずが、隣の第2車線を進行してきたクルマと衝突してしまうケースも少なくありません。そのためか、リバーシブルレーン内でも「怖くて左車線しか走らない」というドライバーもいるようです。