「恫喝」訴訟で“敗訴”…石丸伸二前安芸高田市長の「個人責任の追及」は認められる?
裁判所が“石丸氏個人への損害賠償請求”を認めなかった「本当の理由」
一審判決も二審判決も、石丸氏の行為が名誉毀損にあたると明確に判示している。にもかかわらず、なぜ、石丸氏個人に対する損害賠償請求が認められなかったのか。 一審判決は、石丸氏個人への責任追及を否定する根拠として、公務員の職務行為に基づく損害について個人の損害賠償責任を否定した最高裁の判例(最高裁昭和30年4月19日判決)を引用している。 公務員個人の損害賠償責任はなぜ認められないのか。国分寺市議会議員を3期10年にわたり務め、行政法と地方自治法に詳しい三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に聞いた。 三葛弁護士:「公務員個人への損害賠償請求ができるとなると、公務員に萎縮効果を与えるからです。公務の判断をしやすくするためです。 新奇性のある政策や、賛否がある政策を実行した場合に、その度に訴訟を起こされて個人の賠償責任を追及されるとなると、政治的な判断も非常にしにくくなります。 民主主義の下では、選挙の結果などによって、政策をめぐる状況ががらりと変わることがあります。風向きが変わったからといって、個人として責任を追及されることになるのは、公務員にとってきわめて過酷です。 したがって、国家賠償法は、その公務員が属する行政主体(国、地方公共団体)にのみ損害賠償責任を負わせる趣旨だと考えられています。 一方で、判断した公務員を特定できなくても行政主体を被告とすることで責任追及が可能と言う点はメリットでもあります」 なお、SNS等で石丸氏を擁護する意見のなかに、石丸氏個人の損害賠償責任が認められなかった点をことさらに指摘するものが散見される。しかし、石丸氏が個人として賠償責任を負わない理由は、石丸氏に落ち度がなかったからではない。 判決において、石丸氏が名誉毀損発言を行った事実も、発言の違法性(石丸氏の発言が真実でなく、かつ、真実と信じたことについて相当な理由もないこと)も、明確に認定されている。 石丸氏個人に対する請求が退けられた理由は、三葛弁護士が指摘するように、単に法律の解釈上、公務員の個人責任の追及が認められていないからにすぎない。