ジェット・ロケット切り替えエンジン開発、PDエアロスペースが目指す宇宙輸送の革新
PDエアロスペース(名古屋市緑区、緒川修治社長)は、燃焼モードをジェットとロケットに切り替え可能なエンジン開発を核に、宇宙輸送の革新を目指す。このほど混成方式でのエンジンの燃焼実験に成功。エンジンの機能・性能を向上し、高度100キロメートル程度まで上昇して帰還する無人の「サブオービタル」飛行の商業化を実現し、事業を軌道に乗せる計画だ。かねてより掲げる宇宙旅行の実現時期も遠くはない。(名古屋・狐塚真子) 【写真】PDエアロスペースの「ジェット・ロケット混成方式エンジン」 PDエアロスペースは、総重量の軽量化と、一般空港の利用によるコスト抑制の観点から、大気中と宇宙空間をまたがって飛行できるジェット/ロケット切り替えエンジンの開発を進めてきた。最終的に目指すのは、一つの燃焼室で酸化剤の導入・排気経路を変えて、燃焼モードを切り替えられるエンジン。構造が簡素になり、さらなる軽量化やコスト低減が見込める。 この開発ステップの一つとして、既存のジェットエンジンと、爆轟を円周上に連続的かつ超高速で発生させる回転デトネーションロケットエンジン(RDRE)を融合した、コンバインドサイクル(混成方式)エンジンの燃焼実験にこのほど成功。推力の向上に道筋をつけた。今後、ジェットエンジンもデトネーション化させた後、燃焼モード切り替え方式のエンジン開発へつなげる方針だ。 実用レベルの推力は得られたものの、「子どもと同じで、産むのも大変だが、(実装できるレベルに)育てなければならない」と緒川社長は話す。まず解決すべきは、エンジンの冷却技術。宇宙までおよそ8分間の燃焼が必要だが、現時点では燃焼時の高温に燃焼器が耐えられず、6秒間が限度だ。 同社はどこの空港で離発着しても燃料供給が可能な点を見込み、ケロシンを燃料として使うことを想定する。同燃料での再生冷却技術の確立や、部品点数の削減による軽量化など、実用化に向けた課題は、2025年度中をめどに解決を図る考えだ。 「これまでPDエアロスペースは宇宙旅行の会社として認識されてきた。人はもちろん、物資、人工衛星など、宇宙輸送の会社」(緒川社長)として同社のあり方を広く示していきたいと話す。 27年度には、無人サブオービタル飛行でビジネスをスタートさせる。上昇途中と落下中に生じる微小重力環境を用いて、科学実験や材料・部品の開発試験を請け負うサービスを想定する。 従来の観測ロケットではデータを取得した上で、実験装置などを載せたロケットを海に落下させていた。同社の機体は宇宙港への帰還が可能である点から、装置や供試体の回収、コスト削減などの強みが出せるとみる。 その後、衛星軌道投入事業を展開し、技術力や収益力を高めた上で、35年頃には宇宙旅行の実現を目指す。緒川社長は「(既存の航空宇宙市場に対し)破壊的イノベーションによって、宇宙輸送全般を塗り替えていく」と意気込む。