「日本人」が「糖尿病」にならないために「日常生活でできること」
---------- 日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説! 【写真】じつはいま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」 *本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。 ----------
日常生活でできる工夫はあるでしょうか?
図3─6は、ご飯と野菜サラダのどちらを先に食べるかで、血糖値の上がりかたがどう変わるか見たものです。野菜サラダを先に食べると、血糖値がゆっくり上昇するだけでなく、最も高くなったときの数値が低いことがわかります。食事による血糖値上昇の9割は炭水化物によるもので、野菜に限らず、蛋白質や脂肪、そして食物繊維が豊富な食品は血糖値をほとんど上げません。それどころか、一緒に摂取した炭水化物が分解されてできるブドウ糖の吸収をおだやかにしてくれます。血糖値の上昇が遅くなれば、膵臓はインスリンを少しずつ分泌すればよいので負担が軽くなります。 真っ先にご飯をかき込む人がいますが、糖尿病を予防するには、野菜や肉、魚などのおかずを先に食べるほうが良いということです。先ほどの研究では、アジアの伝統食には1000㎉あたり食物繊維が15g入っていました。日本人のカロリー摂取量にあてはめると1日にざっと30gになりますが、現在の日本人はこの半分しか摂取できていません。相当意識して増やす必要があるでしょう。そして落ち着いて、よく嚙んで食べましょう。こうすれば血糖値がゆっくり上がるため、膵臓の負担を減らせます。3回の食事の量を均等にし、決まった時間に食べるのも大切です。 さて、日本人を糖尿病から守ってくれる和食は、おかずにも秘密があります。以前から、大豆や大豆製品の摂取が糖尿病の発症率低下と関連すること、そして大豆に含まれるイソフラボンを多く摂取する人は、空腹時ならびに食後のインスリン濃度が低いことがわかっていました。インスリン濃度が低いのは、インスリンがしっかり効いていることの指標になります。 さらに、ネズミを使った実験からは、大豆蛋白質の摂取によって内臓脂肪と皮下脂肪が減り、空腹時血糖値が低下して、善玉アディポネクチンが増えるというデータが得られています。これらの研究結果をもとに、大豆製品の摂取と糖尿病発症の関連について大規模な調査をおこなったところ、大豆製品を多く摂取すると、肥満した女性と閉経後の女性で糖尿病の発症率が下がる可能性が示されました。どちらも女性のなかでは糖尿病になりやすい人たちですから、これは朗報と言えそうです。 もう一つが魚です。日本人約5万人を、魚の摂取量にもとづいて4つのグループに分けて5年間調査したところ、魚の摂取が増えるほど男性の糖尿病の発症率が下がりました。 このうち、とくに効果が高かったのが、アジ、イワシ、サンマ、サバなどの背中の青い魚とウナギでした。いずれも脂が多い魚です。魚の脂には、おなじみのEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富で、日本人を含むアジア人はEPAとDHAの摂取で糖尿病の発症率が下がることも示されています。ところが不思議なことに、欧米人を対象にした研究では同じような結果が得られておらず、魚を食べると逆に糖尿病の発症率が上がるというデータすらあるのです。もしかしたら、アジア人にはEPAとDHAが作用しやすい何らかの遺伝的素因があって、これが人種差につながっているのかもしれません。 糖尿病がなかった時代の日本人は、よく歩き、玄米や雑穀米をしっかり食べて、定番のおかずは、アジ、サンマ、サバなどの背中の青い魚と大豆製品、そして野菜や海藻でした。和食には欠点もあるのですが、糖尿病予防にはきわめて有効といえます。 さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人とがんの関係について、詳しく解説しています。
奥田 昌子(医学博士)