ソニーから独立して10年、ノジマグループとなるPCメーカー「VAIO」社長が語る“純国産”メーカーのこだわり
かつてソニーのエンタメ系パソコンとして人気を博した「VAIO」。同社から分離、独立し、ブランド名と同じVAIOの企業名で再スタートしたのは2014年だった。今年はそれから10年の節目だったが、11月11日、家電量販店大手のノジマがVAIOの株主であるファンド、日本産業パートナーズから株式を取得することを発表。2025年1月からVAIOはノジマグループとなる。2021年6月からVAIOをけん引してきた山野正樹社長に、同社の強みや今後の販売戦略の方向性などについて話を聞いた。 【グラフ】法人向けノートPC市場の出荷台数(国内) ■ 追い風が吹いたコロナ禍のリモートワーク需要 ──2025年からノジマの傘下に入ることとなりましたが、VAIOの今後の商品戦略に変化は出てきそうですか。また、VAIO製品はノジマの独占販売でなく、ほかの家電量販店での販売も継続するようですが、個人向け、法人向けのさらなる販路拡大についてはどう考えていますか。 山野正樹氏(以下敬称略) 商品戦略は従来通りで全く変更はありませんし、(ノジマでの)独占販売の予定もありません。今回の株主変更の有無にかかわらず、これまで推進してきたビジネスを予定通り実行していく中で、個人向け、法人向けともに、より有効な販路を拡大していく考えです。 ──パソコン市場はコロナ禍でのリモートワークによる需要増は一巡しましたが、2025年10月にWindows10のサポートが終了することから、法人向け、個人向けともに再びパソコンニーズが盛り上がってきそうです。どのように予測していますか。
山野 コロナ禍前までパソコンは年々コモディティー化が進み、価格軸での競争が一層激しくなっていました。そんな中、コロナ禍でリモートワークを余儀なくされ、パソコンを勤務先から自宅に持ち帰る必要が生じたことで、われわれが手がけるノートパソコンの需要が大きく伸びました。 そんな状況下で、オンライン会議をストレスなくこなすために、高い品質や使い勝手のいい機能を搭載したパソコンのニーズが増えました。アフターコロナの現在もオンラインと対面を併用したハイブリッドワークは企業に定着していると思いますし、2025年4月以降はWindows10からWindows11へのOSの切り替えが顕在化してくるでしょう。そうした点は当社にとって引き続き追い風と言えます。 ──コロナ禍での需要増を経て、売り上げ規模はどのくらい伸びましたか。 山野 2022年5月期に224億円だった売上高は、2024年5月期で421億円と、2年間でほぼ倍増しました。今期も順調で計画では500億円を見込んでいますが、それを上回るペースで推移しています。 ■ 実績やノウハウがなかった法人需要を獲得した手段 ──ソニー時代のVAIOは強力なAV機能を売りにしていたほか、初めてマグネシウム合金を使ったり、バイオレットの斬新なイメージカラーを採用したりするなど“尖った個人向けパソコン”というイメージでした。そんなVAIOも現在では法人向けが90%を占めるそうですね。 山野 ソニーから分離、独立した頃は大幅な赤字に陥っていたこともあり、立て直し策として2つの決断をしています。1つが海外事業からの撤退、もう1つが法人需要に軸足を移すことでした。 ソニー時代は、VAIOの新商品を出すサイクルが3カ月に一度ぐらいの割合でしたので開発投資が大きく、ヒットするか否か不確実性もかなりありました。赤字脱却に向け、個人向けパソコンを引き続き主軸とする企業体力はもう残っていなかったのです。 ──とはいえ、法人向けパソコンは販売ロットが大きくなる分、HPやデル、レノボといったスケールメリットが効く外資系パソコンメーカーに有利で、価格競争になりがちです。当初から勝算はあったのでしょうか。 山野 個人向けから法人向けにかじを切ると言っても、販売実績もノウハウもないところからのスタートですし、法人のニーズはスペックの高さより、品質が安定して壊れにくいといった点を重視します。そこでわれわれも設計段階から大幅な見直しをかけ、改良も重ねながら、費用対効果からみて自信を持ってお届けできる商品に仕上げていきました。 手応えをつかんだのは、私が社長に就いた2021年6月からです。着任前までは、法人向けを主軸にすると言っても正直、プレミアムニッチという立ち位置から脱却できずにいました。従来同様の高スペックで高単価なパソコンのままではエンジニアの自己満足で終わってしまい、販売が伸びませんし、売れなければさらにコスト高となり、往年のVAIOファンも離れてしまう。その負のスパイラルに迷い込むギリギリのところで私がトップに就きました。 ──どこに打開策を見いだしたのですか。 山野 法人がパソコンに求める堅牢性や品質の確かさがあっても、それが認知されていない状態でしたので、地道なハイタッチ営業(代理店等を挟まず直接顧客とやり取りする営業手法)を行いました。 私ももちろんトップセールスをかけ、就任後2年で延べ100社以上を訪問させていただきました。VAIOの特長や強みをご説明し、実機をお試しで使っていただくことで1社、また1社とコツコツと成約にこぎつけていったのです。 三菱商事さま、日立製作所さまをはじめとする名だたる大企業がVAIOを採用してくださいました。各社さま、万単位の成約台数ですから大きかったですね。全社ベースでご採用いただくことも多くありました。 また、ハイタッチ営業だけでは限界がありますので、成約の伸びと並行して、われわれのパソコンを扱ってくださるディストリビューターのネットワークが広がったことも、法人販売に大きく貢献してくれています。