アーセナル、アルテタの采配は間違っていた。選手起用で優先すべきは質だけじゃない【分析コラム】
プレミアリーグ第16節、アーセナル対エヴァートンが現地時間14日に行われ、0-0のドローに終わっている。最後までゴールを奪えなかったアーセナルは、選手起用における問題が浮き彫りになった。果たしてデクラン・ライスとユリエン・ティンバーの起用法は正しかったのか。ミケル・アルテタ監督の采配は、選手の質を優先しすぎているように見える。(文:竹内快) 【写真】アーセナル、高額年俸ランキング
●ライスの最適ポジションは… デクラン・ライスはどのポジション(役割)で起用すべきか。 この問題は彼がノースロンドンにやってきた昨季のみならず、今季もサポーターたちの間で盛んに議論されている。 選択肢は2つだ。左インサイドハーフ(IH)か、アンカーか。ライスの実力があればどちらの役割でもプレーすることは可能なのだが、チームに最大限貢献できるポジションは今日まで明確になっていなかった。 多くの人は、ライスの左IH起用を望んでいるようだ。。そこには、豊富な運動量を誇るライスを中盤の底に固定しておくことはもったいないというポジティブな理由と、昨季アンカーの位置で起用した際にチームに機能不全をもたらしたというネガティブな理由がある。「ライス下りすぎ問題」は最前線と最終ラインの分断を招き、しばしばフォワードの選手が孤立する事態を生んだ。 賛否両論あるなかで、筆者は将来的にライスをアンカーとして起用すべきだと考えている。 今回のエヴァートン戦ではライスのプレーに大きな成長が見られた。アンカーとして起用されたイングランド代表MFは、ビルドアップにスムーズに溶け込んでいたのではないだろうか。 ●アンカーとしてのライスの成長 昨季何度も見た、ライスが最終ラインまで不必要に下りてボールをもつプレーはほとんどなかった印象だ。彼は1タッチ、2タッチで味方選手にボールをさばき、チームのリズムを適切にコントロールしていた。 また、アンカーに求められる配球力も十分に見せていた。データサイト『SofaScore』によると、彼はこの試合で5本中3本のロングパスを成功させている。中央にズバッと刺すようなパスは見られなかったが、以前の彼と比較すると、長いパスで一気に局面を動かそうとする意識は飛躍的に向上している。 今回のプレーを我慢強くさらにブラッシュアップしていけば、来季開幕ごろにはハイスペックなアンカーへと変貌しているはずだ。将来的なアンカー起用の可能性がぐっと高まるパフォーマンスだった。 ただ、ライスのアンカー起用がこの試合の「模範回答」だったかと言われると、そうではないように思える。 ●適性の一方で、ライスのアンカー起用は正しかったのか 負傷離脱等でこのポジションをプレーできる選手がいなかったわけではなく、ベンチにはトーマス・パーティとジョルジーニョが控えていた。ほぼ一方的にアーセナルが押し込み続ける展開で、アンカーが「ライスでないといけない」理由は無かったのではないだろうか。 ライスの機動力はよりオープンな展開の試合で際立つ。アンカーであればボールロストのリスクを冒してボールキャリーすることはできないため、昨夜のようにアーセナル優位の時間帯が続く試合であれば攻撃的なライス、すなわち左IHのライスが見たい。 強調したいのは、ライスはアンカーで起用すべき選手であるという意見と、この試合でライスをアンカー起用すべきでなかったという意見は対立していないことである。パーティやジョルジーニョの方が“この試合では良かった”というだけだ。 この試合を見て、ライスのアンカー起用そのものに対して否定的な見方をもつことは全くの見当違いである。チームはゴールネットを揺らせず、勝利を逃したが、昨季のようにライスのポジショニングやパスが機能不全を招いていたわけではない。左IH起用時のような派手さはなかったが、アンカーとして及第点以上のパフォーマンスだった。 その一方で、アルテタ監督が後半途中からユリエン・ティンバーを左サイドバック(SB)で起用したことは完全に間違いだったと言わざるを得ない。 ●質を優先する采配の弊害 ジョーダン・ピックフォードを中心とするエヴァートンの好守に苦しみ、なかなか点が奪えないアーセナルは69分にマイルズ・ルイス=スケリーを下げた。パーティが右SBに入り、それまで同ポジションを務めていたティンバーが左SBに回っている。 これがチームにブレーキをかける。 その前の選手交代でジョルジーニョが投入された時から、アーセナルはよりワイドな陣形にシフト。左ウイングに対して、スケリーがサポートしやすくなっていた。 しかし、ティンバーが左SBに入ると、そのワイドな陣形がアーセナルを苦しめるようになる。 幅を取った左ウイングの選手に対して、ティンバーは内側のレーンに立って“味方の動き”を待っていた。右SBでプレーしていた前半は能動的な動きで積極的にボールに触っていたのにもかかわらず、左SBではほとんど動かない。 ティンバーからオーバーラップなどの適切なサポートを受けられなかった左ウイングは孤立し、しばしば攻撃が停滞していた。こうした結果を招くのであれば、ほぼ構想外状態であるとはいえ、サイドを直線的に駆けるキーラン・ティアニーを起用した方が攻撃に厚みが生まれたはずだ。 過密日程による疲労に加えて、左右両サイドバックでの負傷者続出でチームは本来のリズムを崩している。このような状況では仕方がないことかもしれないが、最近のアルテタ監督は選手起用において個々の質ばかりにフォーカスしているように見えてしまう。エヴァートン戦では、特性よりも質を優先した結果がスコアレスドローを招いたのではないだろうか。 (文:竹内快)
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