イタリア人はなぜ朝食で甘いものを食べるのか?
イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。 イタリア人マッシの「思考する食欲」
「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアの朝食についてお伝えします。
イタリアの朝食の100年の歴史を紐解いてみよう
イタリアの朝食といえば、甘いものをカプチーノに漬けたりエスプレッソを飲んだりする印象が強い読者がほとんどだろう。イタリア人は朝からなぜこんなに甘いものを食べたくなるのか気になるよね? 今の習慣は実は、第一次世界大戦の頃から変わり始めたんだ。意外にも、戦争がきっかけでイタリアの食文化である朝食が大きく進化した! 「イタリアの朝食はエスプレッソだけ」、そんな昔ながらのイメージは、もう古い話だよ。現代のイタリアの朝食は、社交の場でもあり、栄養を考えながら甘いもので1日のエネルギーを摂るという、「イタリア人らしさ」がたっぷり溢れている。でも、昔はどんな朝食を食べていたのだろう? 今回は、イタリアの朝食の100年の歴史を紐解いてみよう。エスプレッソとクロワッサンの準備は完了?
軍人が持っていた食料が品不足の農家の人たちに広がっていった
第一次世界大戦、二次世界大戦と2つの大戦が終わってしばらくの頃まで、イタリアは、食糧難に苦しむ毎日が当たり前だった。そんな時代、イタリア人の朝食はパン、ポレンタ(トウモロコシの粉を火にかけて湯や出し汁で練り上げたもの)、そして時にはニシンといった、シンプルで質素なものだった。今と違いすぎて本当にイタリアの話をしているのか信じられないよね。 だけど、そこには家族の愛情がたっぷり詰まっていたんだ。硬くなったパンに少量のジャムを塗ったり、残ったポレンタを温めなおしたり。限られた食材で、工夫を凝らして朝食を作って家族で食卓を囲む。それが当時のイタリアの朝食風景だった。今考えると、日本の朝食に近いかも? ここから信じられない展開が始まる。その要因は軍人にあるよ。当時、軍人が持っていた食料はコンパクトで何にでも合わせやすかった。どこでもすぐ完食できる牛乳、コーヒー、チョコレート、ライスのガレットなどが多かったんだ。当時は珍しい食料だったけど、戦争後に在庫として残っていたこれらのものは、農家の人たちに広がって朝一のエネルギーを摂って長く働くために食べられるようになった。エネルギーだけではなく、人々の口にも合って精神的な支えにもなっていったようだ。