恩返しのネオン、輪島に 片町で働く浦見さん 全壊の店舗「ダリア」1月再開
●「待っとる」なじみ客に励まされ 輪島で再びネオンをともしたい。元日の能登半島地震を受けて避難してきた金沢のスナックで再起の時を待つ女性がいる。輪島市の店舗が全壊し、自宅にも住めなくなった浦見久美子さん(51)。失意のどん底から始まった避難生活だが、片町で店を構える同郷のママに救われ、輪島から足を運んでくれる常連客に励まされた。「待っとってくれるお客さんがいる。恩返しがしたい」。浦見さんは来年1月、感謝を胸に地元に戻り、仮設店舗で再スタートを切る。 【写真】地震で全壊した浦見さんの店=1月、輪島市河井町 輪島市海士町(あままち)で生まれ育った浦見さん。37歳の時に夫を病で亡くし、3人の子どもを育てるために、市中心部の河井町の飲食店街・観音町で「ラウンジ ダリア」をオープンさせ、切り盛りしてきた。 元日の地震発生時は輪島港のそばの自宅にいた。激しい揺れに襲われた後、津波を恐れて、帰省していた長男ととともに70代の父親が乗る車椅子を押し高台に逃げた。1週間ほど車中泊を続けた後、金沢に避難。自宅は中規模半壊、約50席あった大きな店は全壊となった。 ●同郷のママ救いの手 「先は見えんし、しばらく金沢で生きていかんなん。バイトさせてほしい」。浦見さんは1月中旬、金沢市片町1丁目のスナック「MAIKONE まいごの子猫」のママで、同郷の地原美樹さん(53)にそう頼み込んだ。旧知の仲である地原さんは「くん子(浦見さん)なら、いつでも来ればいいよ」と快諾した。 お客さんと話をすることで気も紛れたという。輪島の店の常連も片町に顔を見せてくれた。「その時は輪島のもんだらけになったわ」と、2人のママは笑う。 なじみ客から「集まって飲むとこないし、輪島で店やってくれ」「みんな待っとるわ」と言葉を掛けられるにつれ、諦めかけていた思いがよみがえり、観音町に市が設ける仮設商店街に入る決心をした。 働き口を用意してくれた地原さんもまた、輪島に帰省中に被災し、老舗の焼き肉店を営んでいた両親を金沢に呼んで暮らしている。浦見さんは「感謝しかない」と生活を支えてくれた地元の仲間に頭を下げる。 もう一度、たくさんの人が集まって、楽しんでもらえる店に。1月上旬にオープンさせる新店の名前も前と変わらず「ダリア」にしようと決めている。「ダリアの花言葉に『希望』『感謝』の意味がある。片町の店の女の子に教えてもらったんやわ。ぴったりの名前」と浦見さんは笑顔を見せる。 もうすぐ地震発生から1年。多くの人に支えられたその時間を胸に、希望と感謝にあふれた再出発の一歩を踏み出すつもりでいる。