宇宙の桃太郎、挑むは「人類初のスペースデブリ除去」 編集長10年取材録#2 (2019)
スペースXからの一言──「ノブ、工場をつくれ」
しかし、あれよあれよと着実にコマを進めて、2018年11月にForbes JAPANの起業家ランキングで1位が決定。この時、岡田氏と話をしていると、彼はこう言ったのだ。 「創業して2000日目の朝を迎えました。これまで悩んだのは一度だけ。創業の初日です」 ──とはいえ、昨年、岡田さんは「宇宙から厳しい洗礼を受けました」とおっしゃっていましたよね? と私は返した。前年、アストロスケールは初のスペースデブリ観測衛星を打ち上げた。ロシア製ロケットに相乗りしてシベリアから発射されたのだが、軌道を外れて落下する事故に遭遇している。彼はこう続けた。 「打ち上げ失敗のあと、辞めた社員は一人もいません。失敗は点でしかないし、やるべきことは多く、落ち込んでいる時間はないんです」 ──では、一度だけ悩んだこととは何か? 「創業初日に会社の方向性をどうするか、悩みました。デブリ問題を解決するためにどんなことを本業にするか。例えば、デブリの本を書くのか、あるいはデブリ捕獲衛星を設計するのか、または伝道師のように世界中で伝えていくことを仕事にするのかと、事業をどうするかで悩みました」 その時、彼はイーロン・マスクが運営するスペースXの社員たちから言われた言葉を思い出したという。こう言って背中を押されたのだ。 「ノブ、絶対に工場をつくるべきだ。自前の工場をもたなければ、イノベーションは起こせないんだ」 人間の行動を決めるものとは何だろうか。言い換えると、その人が「燃えるもの」だ。大多数の人は、「日々、自分を動かしている原動力とは何か?」を、突き詰めて考えたことがあるだろうか。 おそらく岡田氏を動かすものは、彼のこの言葉にあるだろう。彼はこう言った。 「ブルドーザーのように大きな問題を解いていくのが楽しいですね」 「あるべき姿をできるだけ高みに設定してみると、逆説的に発想は自由になります。問題を理解すればするほど、複数の『解』が根っこで枝分かれして土の深くまで伸びるように無数に増えていきます。大きな問題は、具体的なアクションとその解決のためのオプションに分解されて、とるべき行動が明確になります」 この話を聞いて、彼の大学時代のテニスサークルの後輩が、「岡田さんは変わっています」と笑ったことを思い出した。 「テニスの同好会サークルなのに、大学の体育会よりも強く、体育会の大会で勝つのです。なぜならリーダーの岡田さんが、勝つためのトレーニング方法を自分でつくるからです」 宇宙とテニス。どちらも「あるべき姿」を高いところに設定し、難題を解くためのアクションを設定して、「あるべき地点」に到達する。そのアクションについて、岡田氏を知る人物からこんな話を聞いた。 「彼は世界でもっとも優れた人材を見つけ出してきてはマッピングして、その人たちを仲間に引き入れることができる。その能力が突出している」