年齢とともに早起きになるのはなぜ?意外と知らない「体内時計」と「良質な睡眠」のメカニズム
一日の3分の1もの時間を占める、睡眠。でも「睡眠はなぜ大切なのか?」という疑問に答えられる人はどのくらいいるでしょうか。 【画像】『眠りで脳は大進化する』上田泰己(文藝春秋) 健康のため? 疲労回復のため? 『眠りで脳は大進化する』(文藝春秋)より、睡眠にまつわる新常識をご紹介します。
「外が暗くなると眠くなる」は間違い!
私たちは、夜になれば自然と眠くなり、朝になれば自然と目が覚めます。これは太陽が沈んで外が暗くなると眠り、太陽が昇って明るくなったから起きる、つまり私たちの睡眠が外的な環境の変化へ単純に反応しているからだと思われるかもしれません。しかし実は、私たちの体の中に1日のリズムがあらかじめ備わっていて、それが体内で刻まれているからなのです。 そもそもみなさんは、自分の体内に、このような「体内時計」なるものが存在していることをご存じでしょうか? 例えば、私たちが朝・昼・晩の食事の周期に合わせて空腹を感じるのもまた、この体内時計の存在によって説明ができるのです。「腹時計」のように、いま何時かと時計を見なくても、おおよそ時間のあたりをつけられるのは体内時計の存在によるのです。 この生来、体の内部に組み込まれた「体内時計」は、ヒトに限らず地球上に生活するあらゆる生物が持っていると考えられています。例えば、朝顔、昼顔、夕顔がそれぞれ朝、昼、夕に咲くのは太陽の光を感知するからではなく、まさに24時間周期の体内時計を内側に持っているためです。光の当たらない真っ暗な環境下でも、あるいはずっと光の当たり続ける環境でも決まった時刻に花は咲きます。日の光ではなく「時間」が開花を司っているのは、太陽だけを頼りにしていては、悪天候や厳しい環境を生き抜けないからです。
約40億年前のバクテリアにも正確な体内時計が備わっていた
この体内時計の性質をうまく利用したユニークな植物の時計に、「リンネの花時計」があります。 リンネの花時計は、植物学者のカール・フォン・リンネが1751年に考案したもので、時刻ごとに咲く花を概念的に並べたものです(後に実際につくられた)。リンネの花時計では、午前6時から正午までに開く花、正午から午後6時までに閉じる花、こういった花が1時間ごとに順番に並べられています。 こうやって並べられた花の状態を観察すれば、咲いているか閉じているかでその場所の時刻が推測できるというわけです。これなら、時差のある場所に旅行に行ったとしても、機械時計が手元になくても、花の状態で時刻を推測できます。花それぞれはもともと「いつ咲くべきか」を内側の時計でわかっているので、生物の共通理解でもある外側で流れている時間についても知らせることができるのです。 その体内時計の性質をリンネは利用した、と言えるでしょう。ですからこれは、リンネが「作った」時計であると同時に、自然が作った時計にもなっています。この花時計がきちんと機能するためには、花の体内時計がしっかりと機能している必要があります。 このように、地球の自転のもたらす1日24時間という周期にあわせてサイクルをつくり出す機能のことを「概日時計」と言います。 概日とは、「おおよその1日」の意味です。人間も太陽が出たら起きて活動し、太陽が沈んだら活動を止めて眠る動物です。この24時間サイクルは生活と密接に関わっていますし、おそらく人間が原初から持つ習性に近いものです。 人間以外の動物、例えば夜行性の動物も「夜に活動する」のですから、この24時間周期の体内時計を自然に体得している可能性があります。 多細胞生物だけではなく、原始的な単細胞生物であるバクテリアにも、体内時計はあります。地球は約46億年前に誕生し、その数億年後に生命が出てきたと言われていますが、その頃にシアノバクテリア(藍藻)という光合成をするバクテリアが登場しています。このシアノバクテリアにも、正確な体内時計が存在することがわかっています。 あるいは、地球の公転がもたらす1年365日という季節性の周期を把握する機能もあって、これを「光周性(photoperiodism)」と言い、もしかすると「概年時計」という1年周期の時計が存在するかもしれないと考えられています。