豊かな森で、クマとの共存を識る 星のや軽井沢の「軽井沢ネイチャースティ」
クマ対策犬「ベアドッグ」と共に巡る 軽井沢のクマと人との共存対策を識るエコツアー これから歩くのは上信越国立公園内に位置する国設「軽井沢野鳥の森」。日本固有の鳥獣類が24種余確認されており、野生のニホンカモシカやツキノワグマなども暮らす豊かな自然の森だ。森を案内してくれているのは、ベアドッグとベアドッグハンドラーの田中純平さん。 【関連画像】豊かな森で、クマとの共存を識る 星のや軽井沢の「軽井沢ネイチャースティ」 ベアドッグとは、クマを追い払うために特別な訓練を受けた犬のことで、カレリア地方(ロシアとフィンランドの国境地帯)が原種のカレリア犬(カレリアン・ベアドッグ)が最適な犬種とされている。 「ベアドッグはクマの匂いや気配を察知すると大きな声で吠え立て、木の上などに追い詰めることが得意です。クマには襲いかからず、森の奥へと追い払う。クマに”人間や犬が怖い”ということを学習させるのです」 カサカサと落ち葉を踏みしめながら森の奥へ奥へと歩みを進めていく。色づいた葉が幾重にもふり積もった落葉樹の森は、太陽が差し込み清々しいほどに明るい。裸木の間からはうっすら雪を被った浅間山が見え隠れし、澄んだ晩秋のランドスケープをより美しく印象づけている。 ベアドッグハンドラーの田中純平さんは軽井沢に来る以前は知床や釧路の国立公園でヒグマやエゾシカ保護管理に従事し、ピッキオには2001年から所属。実はカレリア犬を用いたベアドッグ育成プログラムを日本に初めて導入したのが田中さんである。 ピッキオでは現在4頭のベアドッグが活躍しており、今回のツアーで一緒に歩いたのは2代目「タマ」ちゃん10歳のメス犬だ。人なつっこくて可愛いけれど、ひとたびクマと対峙するとその威嚇力は強いという。ハンドラーの指示でしか吠えないよう訓練されているため、この日は近くにクマがいるという想定で田中さんが指示を出すと、タマの大きな声が森に響きわたった。 なるほど、これはクマも驚き逃げていきそうな迫力だ。「カレリア犬はペットには向かない犬種ですよ」と田中さんは笑う。 近年、全国的にクマが人里に出没するニュースが増えその対策に苦慮しているが、軽井沢町では1998年よりクマの行動調査を開始し、2004年にはアメリカのベアドッグ育成機関から日本初のベアドッグを導入。クマを傷つけることなく人の居住エリアから遠ざけるのがベアドッグの重要な役割で、クマと人との共存を目的としている。 その役割を担っているのが『ピッキオ』だ。「ツキノワグマの保護管理」をはじめ、野鳥の森ネイチャーウォッチングや空飛ぶムササビウオッチングなど数多くのネイチャーツアーを開催。2005年には環境省の「第一回エコツーリズム大賞」を受賞している。 「軽井沢は豊かな森に囲まれていますが、実は人間とクマの生活域が完全に重複しており、ほかの地域以上にクマとのすみ分けが困難な場所です。1990年代後半には別荘地を中心に人身被害の危険性も高まっていましたが、国際保健休養地でもある軽井沢では、クマを一方的に排除するのではなく共生を模索する道を歩んできたのです」 「ピッキオのツキノワグマの保護管理は、人の安全管理を第一に、貴重な野生動物であるクマを絶滅させないことの両立を目指してます。ベアドッグによる追い払いに合わせ、クマを罠で捕獲して麻酔をかけ、首輪型の電波発信機をつけて放獣し行動を追跡するんです」と、実際の罠や発信機を見せながらそう説明する田中さん。 発信機からの電波を受信してクマの居場所を特定し、人里近くにいるクマは追い払いの対象になるのだという。また、軽井沢の公共ゴミ集積所には、2003年よりクマが開けることのできない野生動物対策ゴミ箱を導入。 「その結果、年間100件を超えていた被害が2009年以降0件から1桁台を維持しています」 クマは生態系の中で重要な役割を持ち、その存在は「自然そのもの」だと語る田中さん。落ち葉を踏みしめながらゆっくりと森を歩きながら興味深い話に耳を傾けていると、改めて今何をすべきか、個人では何ができるのか・・・そんな思いが静かに湧き上がってきた。 ■ピッキオ「森本来の姿を経済的な価値として高く評価できれば、未来に森を残していける」という理念の下、1998年より野生動植物の調査およびツキノワグマの保護管理や、自然の不思議を解き明かす自然観察ツアーを行っています。2019年からは、世界自然遺産「知床」での事業を、2021年からは世界自然遺産「⻄表島」での事業を開始し、日本はもとより世界に向けて日本の自然の豊かさを伝えています。 住所:⻑野県軽井沢町星野 TEL:0267-45-7777 アクセス:JR北陸新幹線・軽井沢駅から車で約15分 星のや軽井沢の自然を堪能する 「ネイチャースティ」 軽井沢野鳥の森に隣接する『星のや軽井沢』に滞在し、大自然を満喫する1日1組限定のプライベートツアー「軽井沢ネイチャーステイ」。 先出の『ピッキオ』との共同で開発したエコツアーで、クマの生態とともに軽井沢の森の豊かさを愉しみより深く識ることができる貴重な体験プログラムが多彩に用意されている。 庭師とともに敷地内を散策したり、ムササビウオッチングに参加したり、バーを貸し切って夜の神秘の森に酔いしれるなどの素敵な時間もこのプランならでは。 「星のや」が提供する”圧倒的非日常”を、また違ったスタイルで堪能できるとっておきのネイチャーアクティビティだ。 庭師と巡る「谷の集落プライベート自然散策」「谷の集落に滞在する」をコンセプトとする『星のや軽井沢』の広大な敷地には、浅間山を源とする清流を引き込んだ池や棚田の風景が広がり、どこか懐かしさを感じさせる集落のランドスケープはまさに非日常であり圧倒的な美しさに満ちている。 年間を通して100種以上もの樹木や草花を愉しむことができ、110年前の創業当時から大切に守られている貴重な木々も多数存在している。訪れた時はモミジやカエデが秋色に染まり、陽の光を通す鮮やかさは目も覚めるよう。 「完璧に整えるのではなく、できるだけ自然のままの姿を残すようにしています。切り倒さずに残した樹木もあり、木が生えている状況に合わせて建てた客室棟もあるんですよ」 開業当時を知る庭師による解説に耳を傾けていると、庭の美しさや散策の楽しさだけでなく庭師の熱い想いも伝わってくるようだ。 ムササビが住まう自然の森で「空飛ぶムササビウオッチング」山の端に太陽が隠れると気温もぐっと下がって軽井沢らしい晩秋の冷気に包まれる。 ピッキオのスタッフによるムササビの生態や観察のコツをレクチャーしてもらった後、いよいよムササビがいると予想される樹木へと向かう。マントのような膜を広げて木から木へと滑空する野生のムササビの姿が見られるのは夜の帳が降りた頃だ。 ムササビは食事、睡眠、移動のすべてを樹上で行うため、ゆえに「森の連続性」の指標なる野生動物なのだそう。ピッキオでの長年に渡るムササビの調査もとにツアーを実施するため出会える確率は97.8%。 暗闇の中、あっと言う間に飛び立つが、参加した日もその独特の姿を見せてくれ参加者たちの歓声が夜の森に響きわたった。 夕食は季節を味わう「山の懐石 初冬」星のや軽井沢での食事スタイルは、基本的に宿泊と食事を分けた料金体系「泊食分離」。「日本料理 嘉助」や「ブレストンコート ユカワタン」、「村民食堂」など様々な食の選択肢が楽しめるのが特徴だ。 今回は夕朝ともに星のや軽井沢のメインダイニングの「日本料理 嘉助」をチョイス。山川の素材を用いたという山の懐石は目と舌を堪能させる内容で、創意工夫が光る絵画を見るような一皿が絶妙なタイミングで供される。 笑顔で味わう寛ぎの料理という理想の姿を現した「笑味寛閑」がコンセプトという嘉助の夕食を地酒とともに味わう幸せを体験した。 夜の神秘の森を貸切で「森のほとりCafe&Bar」軽井沢野鳥の森の入り口にある「ピッキオ」の建物は夜はCafe&Barとして開放されているが、今回の2泊3日のエコツアー「軽井沢ネイチャーステイ」のプログラムではその空間を貸し切りで利用することができる。 建物の眼の前にはケラ池と呼ばれる池があり、冬は氷に覆われ神秘的な雰囲気に。 漆黒の森と降るような星空は静寂で穏やかな時間を刻み、パチパチと音を立てて燃える薪ストーブの暖かさも心にじんわりと染み入ってくる。 提供されるクロモジなどのハーブをベースにした爽やかな香りのカクテルと、森に暮らす動物たちをイメージした特別な創作菓子も感動もの。 ドールハウスのような可愛らさの菓子は食べるのがもったいないくらいのフォルムで、思わず笑みがこぼれる。 軽井沢の自然は、夜の神秘の森を体験することでより深まっていく。 光と闇が導く、瞑想の時間 メディテイションバス人気の大浴場「星野温泉 トンボの湯」に対して、宿泊者専用として造られた「メディテイションバス」。 心の落ち着きをもたらす「光の部屋」と、心に響く音を感じる「闇の部屋」の浴場空間が設定されており、ややぬるめの39~40度の無色透明の湯が満たされている。 両方を行き来するうちいつしか無心の感覚が湧き上がり心身の穏やかさを実感。不思議な安らぎに包まれのるを覚える。 清々しい朝の光の中で「日本料理 嘉助」で山の朝食朝食は数種の野菜からとった野菜出汁を用いた優しい味わい。初冬は白い舞茸などキノコをたっぷりつかった豆乳鍋が目覚めの胃にじんわり染みてきた。 階段状の立体的な空間が特徴のメインダイニング「日本料理 嘉助」に差し込み朝日が気持ち良い。 冬景色に染まる棚田ラウンジで堪能する、1日1組限定の「棚田アフタヌーンティー」棚田を眼前にする開放的なテラスで、心地よい水音を聴きながら楽しむ贅沢なアフタヌーンティー。ほんのりピンク色のオリジナルシードルのグラスを傾けながら味わうのは、スイーツやジビエのサンドイッチ、フルーツなどなど。 それはまるで宝石箱のような美しさで口福感に満ち溢れている。寒い季節には豆乳チーズフォンデュも登場。景色とともにしっかりとお腹も満足せてくれる充実の内容だ。 住所:⻑野県軽井沢町星野 TEL:050-3134-8091(星のや総合予約) 客室数:77室・チェックイン:15:00/チェックアウト:12:00 料金:1泊17万円~(1室あたり、税・サービス料込、食事別) アクセス:JR軽井沢駅より車で約15分(無料送迎バスあり)、碓氷軽井沢ICより車で約40分 公式ホームページ: 「軽井沢ネイチャーステイ-冬-」概要 期間:2024年12月1日~2025年2月28日(除外日あり) 料金:1名 155,000円(税・サービス料込) *宿泊料別 *食事別 含まれるもの:ネイチャーツアー2回、谷の集落プライベート自然散策1回、森のほとりCafe&Bar1回(ワンドリンク・特別菓子付き) 定員:1日1組(4名まで) 予約:公式サイトにて10日前24:00までに予約 対象:星のや軽井沢宿泊者、4歳以上対象 備考:天候により時間やツアー内容が変動する可能性があります。 ※仕入れ状況により料理内容や食材の産地が一部変更になる場合があります。 雨天開催、荒天時は中止となります。 ※双眼鏡、野鳥図鑑、アウター、靴、雨天時用のレインコートの貸出あり双眼鏡、野鳥図鑑、アウター、靴、雨天時用のレインコートの貸出あり 文/岩谷雪美 撮影/新井寿彦(一部星野リゾート提供)