火山噴火が続く木星の衛星イオの謎、「マグマの海」説を覆す最新観測
(CNN) 太陽系の天体の中で最も火山活動が活発な木星の小さな衛星「イオ」。米航空宇宙局(NASA)の探査機ジュノーが接近通過観測を行って、その謎に迫った。 写真特集:探査機が捉えた美しき木星 イオの大きさは地球の月と同程度だが、地表を覆う推定400の火山から常に噴煙や溶岩が噴出している。 2016年7月から木星と衛星の観測を続けているジュノーは、23年12月と24年2月、イオの地表から1500キロ圏内に接近。画像やデータを収集して、イオの両極の初観測も行った。 研究チームは首都ワシントンで開かれた米地球物理学連合の年次会合で研究結果を発表するとともに、科学誌ネイチャーに掲載した論文で詳細を明らかにした。 論文共著者でサウスウェスト研究所のスコット・ボルトン氏はイオの様子について、「両極から中央を横断して、常に噴火を続ける火山で完全に覆われている」と解説する。 新たなデータからは、無数にある火山それぞれの地下に熱いマグマの部屋があり、それが噴火を引き起こしているらしいことが分かった。これまでは、全土の地下に広がる広大なマグマの海が存在するという説が有力視されていた。 今回の発見は、木星の衛星エウロパや太陽系外惑星など、地下に広大な海をもつ衛星に対する見方を一変させる可能性がある。
まるでピザのような地表
イオは現代天文学の父と呼ばれるイタリアのガリレオ・ガリレイが1610年1月8日に発見した。 活発な火山活動が見つかったのは、ボイジャー1号が木星と衛星に接近した1979年だった。イオの地表はまるでペパロニピザのようだったとボルトン氏は言う。 NASAジェット推進研究所の科学者リンダ・モラビト氏は同年、ボイジャー1号が撮影した画像を調べ、火山の噴煙を初めて特定した。だがイオの火山活動が続く理由は長年の謎だった。
接近通過で分かったこと
イオは木星を約42.5時間の周期で周回しているが、軌道には歪みがあって、木星に接近することもあれば遠く離れることもある。 木星からイオには、ゴムボールを手で握りつぶすような、巨大な重力がかかる。その摩擦が引き起こす「潮汐(ちょうせき)力」によって、イオ内部で熱が生み出される。 「この締め付けによって熱が発生し、あまりの熱さに内部が溶けて噴出する。その噴出は絶え間なく続く。いわばやむことのない暴風雨だ。至る所で常に噴火が続いている」(ボルトン氏) 木星の重力によって常に歪められたイオでは膨大なエネルギーが発生して内部が溶ける。溶けた量が多ければ全土に広がるマグマの海ができて、ジュノーの計器で探知できるはずだとボルトン氏は言う。 イオに接近したジュノーはイオの重力を測定し、ガリレオなど別の探査機や地球上の望遠鏡で観測したデータと比較した。 その結果、イオの内部は全土に広がるマグマの海ではなく、ほぼ頑丈な固体でできていることが分かった。ボイジャー1号の観測から始まった45年の謎が解けた瞬間だった。一つひとつの火山の噴火は、それぞれの地下に存在するマグマ溜まりが引き起こしていた。 「潮汐力によって必ずしも全土につながるマグマの海が形成されるわけではない、というジュノーの発見は、イオの内部に関する我々の知識の再考を促した」。ジェット推進研究所のライアン・パーク氏はそう説明する。「これは(土星の)エンケラドスやエウロパのような衛星、さらには太陽系外惑星やスーパーアースに対する認識にもかかわる。我々の新発見は、惑星の形成と進化について改めて考え直す機会を与えてくれた」 今回のミッションは、イオに存在し続けている幻想的な地表の様子をとらえることにも貢献したと、ジェット推進研究所科学者のハイディ・ベッカー氏(この研究にはかかわっていない)は評価する。巨大な溶岩湖に浮かぶ島々など、これまで脚光を浴びたことのないさまざまな特徴も明らかになった。中でも「ロキ・パテラ」という溶岩湖は特に巨大で、研究者はイオの地表にある溶岩の海と形容している。 ジュノーは木星と衛星の観測を続けており、11月24日には木星で渦巻く雲の上空を飛行した。12月27日には木星中部の約3500キロ上空を通過予定。8年前に観測を始めて以来、飛行距離は10億4000万キロに到達する。