たった3軒の集落で見つけた「シェアハウス」的生活 ハレとケを支える存在
冬はさすがに向かいの集会所も使うが、2階建てだったのが数年前に1階建てに建て替えられ、だいぶ狭くなった。空き家がないと「何も出来やしない」と和田さんはこぼす。空き家が、日々の交流を支えている。
「皆で一軒の家みたいなもんだね」
同じ顔合わせで、そんなに毎日、何を話すことがあるのだろうか。 松下さんは、隣の集落・岩明の3、4人が集まるサロンや20人ほどが集まるグラウンドゴルフにも参加しており、そのみやげ話を和田さんにすることも多い。最近は岩明の3軒の家で立て続けに葬式があったそうで、その話題で持ちきりだ。パワーヘルスを使ったり、編み物をしたりして過ごすこともある。
「一人だとやることがたくさんある。デイサービスもわしゃ忙しくて行けん」。和田さんの91歳とは思えない話しぶりに、松下さんも「みんなたまげる」とうなずく。 一本の通りに家が密集する新道では、ほかの住民と顔を合さない日はない。車を降りると、二人に「寄って」と手招きされてやってきたのは、3軒のうちもう一軒の山田さん。これからテレビでオートレースを観るところだという。先月の常会が流れた話や、新しく龍山に来る地域おこし協力隊の女性の話題など、なんだかんだと立ち話に花が咲き、しばらくすると「じゃ、ごゆっくり」と家に入っていった。 山の上の集落に住む人も、通りすがりに立ち寄っては、近況を話したり、採れたてのたけのこやわらびを置いていったりする。 家事も自分でこなし、日々の買い物は「浜松から毎週末泊まりに来る長男が連れて行ってくれるもんで、なんも不便なことはない」という和田さん。周りも安心して一人暮らしをさせられるのは、常に人の目が届く環境があるからだろう。 万一の時のために自宅の窓のそばに置いた「安心コール」は、ボタンを押すだけで呼び出しをかけられるコードレス固定電話機だ。一回押すと松下さんの家に、応答がなければ向かいの家に、さらに応答がなければ浜松市内の長男の家につながる仕組みになっている。 「寂しいことは全然ないね。皆で一軒の家みたいなもんだね」。終始冗談めかして話していた和田さんが、少し落ち着いた口調になった。集落全体が、まるで大きなシェアハウスのように感じられた。