たった3軒の集落で見つけた「シェアハウス」的生活 ハレとケを支える存在
要は不法侵入なのだろうか…。のんびり空き家で涼む2人のおばあちゃんをネットで見つけ、ふと疑問が浮かんだ。日本中で増えている空き家だが、一度借り手が付けば、そこは住居や商店となる。そうではなく、いまだ「空き家」と呼んでいるということは、おばあちゃんたちが借りているわけでも、集会所やカフェとして生まれ変わったわけでもなさそうだ。 その空き家を探し、浜松市天竜区龍山町の新道小保を訪ねると、そこはわずか3軒の集落だった。空き家で涼んでいたのは91歳と84歳。いわゆる「限界集落」に、おばあちゃんたちが元気に暮らしている。空き家を最大限に活用した集落での暮らしは、都市部のシェアハウスのようだった。 浜松の都心部から電車とバスを乗り継いで約1時間半。龍山町のメインストリートを背に、白倉川沿いを歩く。なだらかな傾斜を登りながら、既に朽ちた空き家をいくつか通り過ぎ、10分ほどすると着くのが新道だ。肩の位置までせり出した川の堤防とコンクリートで保護された山の斜面に挟まれ、100メートルほどの道の両側に家が並ぶ。 その中ほどにある、築100年はゆうに超えるというこの空き家は、もとは酒屋だった。 「わしら毎日開けて使ってやってるもんで、腐らんもんね。鍵なんかかけんよ。開けといたって、何もきやせん、猫が入るぐらいで」。 和田力子さん(91歳)といとこの松下スズ子さん(84歳)が出迎えてくれた。和田さんと松下さんは、夏の間涼をとりに、毎日午後の一番暑い時間空き家へやってきて、土間に置かれたソファーに仲良く腰掛ける。
皆のリビング
天竜はかつて国内最高温度を記録したほど暑いことで知られるが、川沿いにあるこの集落は涼しい。川を背にして建つ空き家は、奥の部屋の戸を開けると、ザーザーと流れる川の音とひんやりとした風が通る。 ひっきりなしに続く音はけっこうな大きさだが、和田さんも松下さんも、「わしら川の音なんかわからんね」「習慣になってね」と口をそろえる。 「空いてるんだから、何もしないよりは、使ってくれれば」との家主の好意もあり、新道の住民が共同で光熱費を負担して使い始めたのは、6年ほど前。土木の仕事で一時的にやってきた男性に寝床として提供するタイミングで、全員で白カビを掃除し、ちょうど閉じた近所の役場から椅子などをもらってきた。 書面で契約を交わしたわけでもない。誰でも自由に出入りできる、ちょっとした「共同リビング」だ。 奥の部屋は床がたわんでいるが、柱や梁は太くしっかりしており、広い土間や掘りごたつもある。土間の脇には、酒屋の名残か、何台もの冷蔵庫が扉を開けて、お酒や料理が入れられるのを待ち構えている。表の抜けたタバコ販売の看板は、レトロな看板をコレクションしている人に譲ったらしい。 家具や家電、マンガなども多く残り、持ち主は街中に引っ越した今でもしょっちゅう物を置きに来ては、周りの住民と顔を合わせていくという。