【ロシアの“ゾンビ戦車”が戦場へ】質よりも量を優先、戦車供給から見るプーチン・ロシアの今
新車か旧車か、それが問題だ
22年2月24日にプーチン体制のロシアがウクライナへの全面軍事侵攻を開始して以降、ロシアの軍需産業の稼働状況につき、さまざまな憶測が語られてきた。当初は、国際的な制裁で、半導体をはじめとする重要部品を入手できず、開店休業状態に陥っているといった見方が優勢だった。 しかし、ここ半年ほどは、ロシアの政権幹部が軍需の増産に関し手応えを口にする場面が増えてきた。たとえば、昨年12月にロシア国防省で恒例の拡大幹部評議会が開催された際に、ショイグ国防相が軍需産業の成果を列挙している。 国防相によれば、22年2月の開戦後に各品目の生産は、戦車:5.6倍、歩兵戦闘車:3.6倍、装甲兵員輸送車:3.5倍、ドローン:16.8倍、弾薬:17.5倍に拡大したという。また、23年に軍に納入された兵器の数は、航空機・ヘリコプター:237機、ミサイルシステム:86基、近代的な多目的潜水艦:4隻、軍用艦:8隻、戦車:1530両、歩兵戦闘車・装甲兵員輸送車:2518両に上ったとのことであった。ただし、ここで注意すべきは、ショイグ国防相が戦車に関しては、「新規の、そして更新された戦車が1530両」という微妙な言い回しをしていることである。 情報筋によると、ウラル工場は22年2月の侵攻開始直後に、国防省から400両の戦車の発注を受け、可及的速やかに納入するよう求められたとされる。しかし、同社の新規生産能力はせいぜい年間200~250両止まりである。こうした事情から、ロシアは大量にストックされている旧式戦車を修復・更新して、戦場に送り出すという作業を強化することになった。
ウラル工場は、新規生産と並行して、旧戦車のリストア(修復)も手掛けている。それ以外に再生作業に従事している代表的な工場としては、前出のオムスクトランスマッシュ、サンクトペテルブルグ近郊に所在する第61装甲戦闘車修理工場、極東のザバイカル地方にある第103装甲戦闘車修理工場が挙げられる。 これらの工場は、それぞれ年間200両ほどの旧戦車のリストアをこなすことができるようだ。また、22年9月には、ロストフ州カメンスクシャフチンスキーとモスクワ州ラーメンスコエに新たに装甲戦闘車修理工場を建設する計画も明らかになった。 ちなみに、オムスクトランスマッシュは、10年にウラル工場の傘下に入っている。また、第61、103をはじめとする7つの装甲戦闘車修理工場も、プーチン大統領の決定により13年にウラル工場系列に入ったということである。 これは後述の最新鋭戦車アルマータT-14がロシアとしては画期的な長いライフサイクルの利用を想定していたことから、そのサービス体制を充実させるための措置だったと言われている。もっとも、ウクライナ侵攻が始まると、実際には装甲戦闘車修理工場は、新型戦車アルマータの整備という当初の想定とは異なり、廃戦車の復元を生業とすることになったという逆説がある。