コクヨ、「誰も置き去りにしない」ハウズデザインで経済合理性のなさに商機を見出す
■「法定雇用率を守るだけでは不十分」
――ハウズデザインを打ち出した経緯を教えて下さい。 2021年に策定した長期ビジョンがきっかけです。人口減少が進み経済が縮小する社会で生き残る方針として、「自律協働社会の実現」を掲げました。 自律協働社会を実現するには、「社内外のインクルージョンの推進」は不可欠でした。障がい者雇用の法定雇用率は守れていましたが、それだけではインクルージョンの推進には不十分だと考えました。 コクヨらしい取り組み方をしたいと考え、コクヨKハートに相談しました。従来は、親会社と子会社のタテの関係でしたが、ハウズデザインでは、共創して新しい価値を生み出す仲間ととらえました。 ――ハウズデザインについて社内の反応はどうでしたか。 商品開発の工数は増えましたが、新しいデザインの余地が生まれ、これまで気付かなかった課題に気付くことができました。 2024年には新商品の開発に関して、当事者との対話を100回ほど実施しました。これまでの商品開発で想定していたリードユーザーとは異なる方々の意見を聞けて、「使いやすさ」を見直すきっかけになっています。 ハウズデザインで作った人気商品に暗記シートがあります。暗記用品には、緑色や青色のマーカーを黒文字の上に引くので文字が読みにくく、覚えたい場所が目立たないという課題がありました。
そのため、より見やすくしたいという目的のもと、ペンの色とシートの色を抜本的に見直しました。5000種類程度の組み合わせをテストし、一番良い組み合わせを探したところ、最終的に、オレンジ色のマーカーと水色のペンを青色のシートで隠す、この暗記用品を開発しました。 色覚特性のある方から、「自分たちは赤が薄く見えるんです、だから赤シートでは(文字が)隠れず見えてしまうんですが、青だとよく隠れますね」ということを聞きました。この言葉が、青色シートを開発しようと考えたきっかけです。
■コクヨの「当たり前」を変えたい
――ハウズデザインによる商品開発を通して、どのように企業価値を高めていきますか。 文房具だけでなく、インクルーシブの視点をオフィス設計にも取り入れました。おかげさまで取材や見学の問い合わせが増えました。 2021年からこの取り組みは始め、社内でこうした考え方が着実に根付いてきたと手応えを持っています。振り返ると、私が注力してきたのは、コクヨの「当たり前」を変えてきたことです。 コクヨの中の当たり前を変えるには、3つのことが変わらないといけないと思っていました。まず一つ目は経営陣の意識です。経営陣の意識が変わると、事業プロセスも変わります。そうなると、従業員が考える当たり前も変わり、腹落ちします。 ハウズデザインによって、経済的な価値だけでなく、社会的なインパクトも追いたいと考えています。 ※コクヨの「HOWS DESIGN」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選ばれました。次回の一つ星エントリーは、1月14日まで受け付け中です。 エントリーフォームはこちら (https://www.alterna.co.jp/135966/)