卵の白身に味がしないワケ「じつは、タンパク質そのものは味がしない」…アミノ酸に分解して、じつに「深い味わい」に変える、発酵の「驚愕の効果」
pHをコントロールして、雑菌を死滅させる
白菜などの野菜を放置しておくとドロドロに腐ってしまうが、 壺に入れて糠(ぬか)に漬けておくと、いつの間にか酸味が出て長持ちする。このように糖分を含む食品を通気を制限して保存すると、たいていは乳酸菌が繁殖する。乳酸菌は大量の乳酸を生成してpHを低下させる、つまり酸性にすることにより、中性付近のpHを好む雑菌を死滅させて自分たちに都合の良い環境を作り上げる。 ほとんどの腐敗菌や病原菌は中性からやや塩基性の環境を好むため、乳酸菌が生育してpHが4.3程度まで下がると、健康被害をもたらす微生物はほとんど生育できない。 発酵食品の製造現場では、乳酸菌の出番が非常に多い。漬け物やヨーグルトは主役として働く乳酸菌がイメージしやすいが、チーズ、清酒、味 、 油、赤ワインなどの製造にも乳酸菌が重要な役割を果たしている。このように食品のpHを低下させることにより、雑菌の繁殖を抑え食品の保存性をよくすることが発酵食品の第一の意義である。 では、実際にどのようにpHを変化させるのだろうか。
糖分が多く含まれた食物の場合
野菜や果物には糖分が多く含まれている。穀物の主成分であるデンプンも、分解されると糖分になる。デンプンや糖分は炭素(元素記号C)と水素(H)と酸素(O)により構成され、それぞれが1:2:1の割合で含まれている。つまり、炭素(C)が水(H₂O)と結合した形となっているので、炭水化物とよばれる。 糖分は微生物に分解されると、乳酸や酢酸などの有機酸を生成してpHが低下する。甘酸っぱい匂いを放つようになり、酸味の強い味わいとなる。
タンパク質が多い食物の場合
一方、魚、獣肉、牛乳などにはタンパク質が多く含まれている。タンパク質には炭素と水素と酸素の他に窒素(N)と硫黄(S)が含まれているため、微生物に分解されると窒素を含むアミンやアンモニアが発生してpHが上昇する。 窒素や硫黄を含む化合物が生成するため猛烈に臭くなるうえに、pHが中性から塩基性に傾くため腐敗菌や病原菌が繁殖しやすくなり、非常に危険である。このような発酵食品では、多量の塩分を加えることにより病原菌の生育を防ぐことが多い。