卵の白身に味がしないワケ「じつは、タンパク質そのものは味がしない」…アミノ酸に分解して、じつに「深い味わい」に変える、発酵の「驚愕の効果」
基本調味料の「酢」「醤油」「味噌」はもちろん、「漬け物」「納豆」「鰹節」「清酒」さらには「旨味調味料」も……。微生物を巧みに使いこなし、豊かな発酵文化を築いた日本。室町時代にはすでに麹(こうじ)を造る「種麹屋」が存在し、職人技として発酵の技術は受け継がれてきた。 【画像】消化しにくい「大豆のタンパク質」をごっそり頂く「人類の凄すぎる知恵」とは じつは、科学の視点から現代の技術で解析を進めるにつれて、そのさまざまな製造工程がいかに理にかなったものであるか、次々に明らかになっている。発酵食品を生み出した人々の英知に改めて畏敬の念を覚えつつ、このような発酵食品について科学的な側面から可能な限り簡明に解説していこう。 今回は、なぜ食べもの(食材)をわざわざ発酵させるのか、発酵食品の意義から考えてみたい。じつは、発酵食品は身近に溢れるほど多くあるのだが、そのわけが見えてくる。 *本記事は、『日本の伝統 発酵の科学 微生物が生み出す「旨さ」の秘密』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
発酵食品の始まりは「保存食」
一般の人々は微生物の存在を意識することなく、発酵食品を生産・消費している。納豆やヨーグルトは微生物の働きで作られることは知識として知っていても、実際に微生物を目にしたことのある人はあまりいないのではないだろうか。 発酵食品は食材を微生物の作用により加工して製造した食品であり、納豆、漬け物、鰹節など風味を改良した食品または保存食として作られる。 人間は食いだめも冬眠もできないので毎日食料を確保しなければならないが、食料は一気に大量に手に入るときもあれば、冬期などめったに手に入らない時期もある。太古の人々は飢えと闘うために、食料をどうやって保存したらよいか必死に考えたことだろう。飢えに耐えかねて、異臭を発するようになった食料に手を出した人もいたはずだ。 必ずしも勝率の良い賭けとは言えず、食中毒を起こして無念の死をとげた人も多かったことだろう。初期の発酵食品は、このような命がけの試行錯誤から生まれたと思われる。 いかにして食料の腐敗を防ぐか。腐敗は食中毒の原因となる雑菌(腐敗菌)の繁殖であるから、このような腐敗菌が生育しないようにすればよい。微生物の繁殖には、 栄養分と適度な温度 水分 塩分 pH(酸性・塩基性の度合い) などの条件が必要であるから、食料を安全に保存するためには腐敗菌の繁殖に必要な条件のどれかを除くのが合理的である。ここでは、4つめのpHについて、考えてみよう。