長塚京三「『課長の背中を見るのが好きなんです』のCMで《理想の上司》としてブレイク。軽井沢の別荘で学生時代に読んだ本を音読する時間が今は幸せ」
〈発売中の『婦人公論』6月号から記事を先出し!〉演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第29回は俳優の長塚京三さん。CMのブレイクで〈理想の上司〉として人気となった長塚さん。コロナ禍をきっかけに、軽井沢の別荘で静かに過ごす時間が増えたそうで――。 【写真】公開中の映画『お終活 再春!人生ラプソディ』では洋画家の役を… * * * * * * * ◆「理想の上司」のイメージが 第2の転機となるのは意外なことに、サントリーオールドのCM(95年)でブレイクしたことだという。その後、JR東海のCM「そうだ京都、行こう。」の味のあるナレーションでも親しまれた。 ――あのサントリーオールドのCM。夕暮れの街をスーツ姿の僕と、部下の若い女性とが連れ立って歩いていて、「私、課長の背中を見るのが好きなんです」と言われて、そのあと嬉しそうにピョンと跳ねる後ろ姿。あれが評判を呼びましてね。シチュエーションを変えてシリーズ化され、毎年放送されました。 これで「理想の上司」のイメージが固まったみたいで、CMを監督した市川準さんとはその後も映画を撮りましたし、また、篠田正浩監督がCMを見て、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97年)の主役を「長塚で行こう」って話になったと聞きましたからね。 これは戦死した長男の遺骨を故郷の墓に納めるための家族旅行の話で、僕の奥さん役は岩下志麻さんでした。
長塚さんはこの映画で日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞する。でも、その活躍は映像だけではなく、舞台にも及んでいる。たとえば私が一本だけ観た『オレアナ』(94年)とか。 ――ああ、あれはかなり気に入ってる作品です。アメリカのデヴィッド・マメットが92年に書いた戯曲で、セクハラという言葉が世に出始めたころの話。 大学の先生が女生徒の肩を抱いて慰めてやったのをセクハラだと訴えられるという芝居で、最初は若村麻由美さん、再演(99年)は永作博美さんと共演しました。 でも僕は、どちらかと言えば大勢が出る群像劇より、一人芝居とか二人芝居とかが好きですね。一人芝居は、息子の圭史の書いた作品を演じたりしたこともありました。 では映画『UMAMI』(2022年)について。日本側からは長塚さんの他に、柄本明、小泉今日子などが出演している。 ――フランスの名優ジェラール・ドパルデューが、以前に権威あるコンクールで負けたライバルのシェフ(僕です)を捜すために来日する話で、僕のところに彼を連れてくるサラリーマンの役が柄本さん。フランス人シェフが、人生を左右した旨味に再び挑むという話です。 この撮影の時のスタッフが『パリの中国人』のことを知っていたので驚きました。当時彼らは生まれてたかどうかくらい昔の映画なのに知っていて、フランスではエンタメ作品として当たった映画だったようです。
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