豊永利行×稲垣好と“ロボットとの結婚”を考える かわいさの鍵は「人間的な不器用さ」
AIの性能は日進月歩で進化を進めており、生身の人間と見分けがつかない知能を持った生成AIも誕生してきた。そんな現在の世の中で、家事ロボットのミーナとの夫婦生活を描くTVアニメ『僕の妻は感情がない』が放送中だ。 【写真】ミーナ役に挑戦した稲垣好の撮り下ろしカット 物語は、仕事に忙殺される社畜サラリーマンのタクマが家事ロボットのミーナを購入し、夫婦生活を始めるところから始まる。感情がないロボットのミーナが“お嫁さん”であろうとする中で、温もりや切なさ、そして愛しさまでが描かれており、AIが人間に肉薄しつつある2024年のいま、放送される意味のある作品だ。 リアルサウンド映画部ではタクマを演じた豊永利行と、ミーナを演じた稲垣好にインタビュー。人間がロボットと夫婦の絆を築くことについて率直な気持ちを語ってもらうとともに、ミーナのかわいさを2人でどのように工夫して表現したのか話を聞いた。 ■ロボットならではのかわいさとは? ーー本作の設定について奇妙だと思う人も多い気がするのですが、最初に原作を読んだ時はどのように感じましたか? 豊永利行(以下、豊永):最初の印象としては、ダークというか、不思議な違和感を覚える作品でした。ですが読み進めていくうちに“怖さ”みたいな感覚はいつの間にか消えていて、純粋にハートフルな話に感じていきました。ミーナちゃんがいろんな行動を取るようになっていくので、その行動が面白くもあり、かわいらしくもありました。いつの間にかミーナちゃんがロボットであることを忘れて読んでいて、そこに愛着が湧くことと、タクマが要所要所で鋭いツッコミを入れたりしているのも面白かったです。 ーー2人の距離感もいじらしいものがありますよね。 豊永:最初に感じた違和感も含めて、読み進めると次第に出てくるムズムズさを楽しむ作品でもあるのかなと思います。 ーー稲垣さんはどのように感じましたか? 稲垣好(以下、稲垣):私も最初はちょっと「怖いな」と思ったのが始まりでした。でもタクマが行動を起こしたところからミーナちゃんの様子も変わり、そこからミーナちゃんにしかない行動が出てきて、すごくかわいいと思いました。「あれ、ロボットってかわいいのかも……」のような感情を、この作品で初めて知りました。 ーーロボットならではのかわいさというか。 稲垣:他にもロボットがたくさん出てくる作品なので、それぞれに違った感じ方があって、それぞれの考え方がまた面白いんです。キャラクター同士で会話のズレが生じたり、価値観が違ったりするのが面白くて。そして日常の話がたくさん出てくるので親しみやすく、一緒に過ごしている気持ちになれますし、現実的なところもある作品です。そういった要素もあって共感しやすく、ギャップが楽しい作品だと思います。 ーーお2人の話を聞いていると、最初は怖さを感じているのが共通しているように思います。率直に、ロボットと夫婦になるということについて、どのように感じていますか? 豊永:難しいですよね。立場にもよるのかな、と思ったりもするのですが……自分の置かれている境遇にもよるのではないでしょうか。例えば、フィギュアを心から愛し、結婚する方の話もニュースになったりしていますし、いまは多様性が重んじられる時代になっています。なので「本人がそうしたければ、それでいいのではないか」とは思うのですが、一方で僕は今年40歳で、親としての気持ちをふまえてこれを現実の話として考えたら、「それでいいんじゃない」と軽く言えるかな……というのは、ちょっと自信はあまりないです。真剣に考えると、少し迷いが生じてしまうかもしれないです。 ーー確かに、親として当事者になると、簡単に勧められるようなものではないかもしれません。 豊永:とはいえ僕自身がその状況になったとしたら、多分周りの目とか声を鬱陶しく思うでしょうし、「俺の問題だから何でもいいじゃないか」という気持ちにもなるだろうと思います。非常に難しい問題です。パートナーとは何なのか、ということを考えさせられました。今の世の中では、自分専用のものではない、沢山の人が同じAIを利用することも普及していますよね。もしミーナちゃんのように自分専用に学習してカスタマイズされていくものだとしたら、愛着の持ち方も変わってくるかもしれません。 稲垣:私も、この物語はミーナちゃんだったからこそ「この夫婦生活いいな」と思えたかもしれないです。現実の世界で量産されているものだったり、みんなで共有されているものなどであれば、少し話が変わってくる気がします。自分がそういった対象とパートナーになりたいとはあまり考えたことがないのですが、身近な人にそうなりたいんだよねと言われたら「すごくいいと思うよ」と返すと思います。愛情があるのならば、「お幸せに!」と言えると思います。 ■“物理的な機微”の演技に挑戦した稲垣好 ーー話を読み進める中で、ミーナがかわいく思えてきたのはどのあたりだったのでしょうか? 豊永:実は結構最初の方からでしたね。アニメ第2話のお腹で温泉卵を作るみたいなことをやり始めるあたりから。そこから「このロボットかわいいかも」って思い始めました。あと、ミーナちゃんは家事ロボットだから機能が制限されているバージョンだというところですね。極限まで性能の高い“スーパーミーナちゃん”も登場しますが、割とすごく人間らしい振る舞いをするロボットで、ミーナちゃんはそうじゃないところがまた逆に愛らしいというか。人間的で、不器用なところにかわいさを感じるようになりました。 稲垣:あとは無表情なところですね。表情がないからこそ怖いなと思われてしまうのですが、第1話でタクマと寝るときに「何が好きですか?」と聞かれて、「ミーナちゃん」と言うまで寝なかった。これすごくかわいいじゃないですか。この、「求めてる答えはそれだったんだ……!」みたいな、「好きって言って」というような感情が最初に見えて、そこがかわいいですし、“沼”の始まりだったと思います。 ーーそんなミーナという存在をどのように演じましたか? 稲垣:やはり、動作にかわいらしさが表れるところがあるので、表情の変化が見えない分、動きの抑揚をなんとかつけられないかなと意識しました。首を上げる動作をするときに声はどういう風に出るかな? など、少しずつ変化を入れていきました。あとはずっと同じように喋っているので、語尾や、何回も言う「かしこまりました」というセリフの中にも少しずつ変化を入れて、2人の関係の距離感などを出せるようにしていました。 ーーそんなミーナの演技を豊永さんはどのように受けていましたか? 豊永:感情がない中での“物理的な機微”みたいなものに稲垣さんがチャレンジしてることはわかっていました。僕としては、その演技に“反応したい”という気持ちはありましたが、タクマ目線で考えてみると関係が進展するにつれて起こるミーナちゃんのそういう変化は当たり前のことで、タクマはミーナちゃんの変化をありのまま受け止める人だと考えていました。なので、そこにプラスする形で、タクマがミーナちゃんのことをどれだけ思ってるか、みたいなことで返すようにしようと思い、芝居を組み立てました。
間瀬佑一