【社説】25年度税制改正 「年収の壁」解消は道半ば
税制の見直しは暮らしに直結する。より公平、公正な税制を目指し、与野党で責任ある議論を深めてほしい。 自民、公明両党は2025年度の税制改正大綱を決定した。所得税が生じる「年収103万円の壁」を123万円に引き上げる。 103万円は基礎控除48万円と給与所得控除の最低額55万円の合算で、それぞれ10万円引き上げる。非課税枠の拡大は1995年以来、30年ぶりとなる。 物価と賃金が上がれば所得税負担は重くなる。現状は実質賃金が増えず、生活は厳しくなる一方だ。この30年間に生活必需品は20%ほど値上がりした。これに見合う非課税枠の拡大は妥当だろう。 長く据え置かれた非課税枠を拡大し、手取りを増やすのは国民民主党の公約だった。衆院の議席が過半数を割った与党が、補正予算案に賛成してもらうために国民民主の主張を一部受け入れた格好だ。 最低賃金上昇率を基に178万円への引き上げを求める国民民主と与党の溝は深く、3党の協議は物別れに終わった。国と地方を合わせた税収が年7兆~8兆円減少することがネックとなった。 それでも大綱には178万円を目指して来年から引き上げることや、いわゆるガソリンの暫定税率廃止に向けた3党幹事長の合意内容を盛り込み、「引き続き、真摯(しんし)に協議を行っていく」と記した。 政府、与党が予算案や法案を成立させるには野党の賛同が欠かせない。国民民主との協議が再開され、非課税枠が拡大する可能性もある。 党利党略を絡めたポピュリズム(大衆迎合主義)的な減税で、赤字国債を増発する事態は避けなくてはならない。歳入歳出の両面に目を配った議論を求めたい。 国民民主の協議参加で、与党の密室で決まっていた税制改正の過程が国民に見えるようになったのは前進だ。さらに透明化を進めてほしい。 所得税の非課税枠を拡大するだけでは、主婦らの働き控えは解消できない。社会保険料の負担が生じる「106万円の壁」や「130万円の壁」があるためだ。社会保障制度の見直しと一体で検討する必要がある。 大学生年代の年収の壁は解消する。19~22歳の子を扶養する親の税負担について、子の年収制限を103万円から150万円に引き上げ、これを超えても負担が急増しない仕組みが導入される。 学費や生活費を稼ぐため、アルバイトをしながら学ぶ大学生には朗報だ。人手不足の緩和にもつながる。 防衛力強化の財源を確保するための増税は、法人税とたばこ税を対象に26年4月に開始すると決め、所得税は先送りした。 金融所得が多い富裕層ほど所得税負担率が低くなる「1億円の壁」は手つかずだ。金融所得課税の強化など負担増の議論に踏み込むべきだ。
西日本新聞