新たなる体験が血肉になって、さらに「Stranger」の理想に近づいていく〝下町映画館の再出発〟
都営地下鉄菊川駅近くの映画館として東京・下町地区で異彩を放っていたStrangerの経営母体が変わった。岡村忠征さんが立ち上げた同映画館を事業継承という形でナカチカ株式会社が後を継いだ。映画業界の経験を経ずに始めた岡村さんの後継者は、非劇場配給会社からシネコンに務め、配給の経験もある更谷伽奈子(27)。会社も新たにストレンジャー(株)を立ちあげ、取締役社長に就任した。Strangerの精神を引き継いでいくもの、発展させていくものについて語ってもらった。 【写真】〝下町映画館〟Strangerの客席に立つ更谷伽奈子社長=田辺麻衣子撮影
五つの映画体験
更谷は「今でも岡村さんとは日々やり取りしています。Strangerの精神を引き継ぐだけでなく、細かいこともやり取りしています。時には劇場を訪れてくれることも」と語り始めた。岡村さんが開業時に掲げた「映画を知る」「映画を観(み)る」「映画を論じる」「映画を語り合う」「映画で繫(つな)がる」という五つの映画体験を一連のブランド体験として提供するというコンセプトを守り、さらに発展させていこうというのだ。 同館で人気のあったオリジナルで作品をセレクトした特集上映も継続している。「新たにホン・サンス、ジョン・ヒューストンなどの特集も行います」とStrangerの良いところ、ブランドを残すことに力を注いでいる。 地域性も生かして2021年公開「ペーパーシティ 東京大空襲の記憶」を毎日イベント付きで上映した。「下町を焼き尽くした記憶を地元に引き継ごうという思いだったが、期せずして近くに宿泊のインバウンドのお客様も訪れてくれた」と興行ならではの面白さを生き生きと語った。 その一方で良質な作品のロードショー公開を始めた。28日から始まるホン・サンス特集もミモザフィルムズ配給の新作「WALK UP」の公開に合わせて行われる。「新作を上映することで、配給会社の宣伝も劇場での宣伝もどちらも『やらなくちゃ』という競い合いみたいな感じになり相乗効果が生まれている」と手応えを語った。 「また、サブスクリプションの配信開始日に大ヒットアニメ『BLUE GIANT』を上映したところ、多くのお客様が劇場を訪れてくれた」と今までの常識にとどまらないプログラムも功を奏したと言う。