水さえ与えられず5頭が餓死…21頭の多頭飼育現場から救われた秋田犬が怯えたもの
預かりさん宅では「生活音」に震え…
坂上さんは、引き出したその足で預かりさんの自宅に近い、保護団体が併設されている病院に連れて行き、健康チェックや去勢手術などの医療ケアを依頼。 「翌日に預かりさんに迎えに行ってもらいました。預かりさん宅は、その段階で、先住犬が2 匹、猫が 3 匹の大家族です。ほかの動物たちと仲良くできるかが気になるところでしたが、ハクはこれまでも犬がたくさんいる環境で、これは私の想像ですが(笑)、おそらく末っ子として育っていたはず。預かりさんからは、『自分よりずいぶん小さな先住犬たちをお兄ちゃんのように慕い、なんでも真似をして、そばにくっついて安心して眠っています。猫たちがそばを通る時には遠慮して小さくなっています(笑)』と報告を受けました。 素直でおっとり、そしてドッグランでも他の犬たちと上手に遊び、コマンドもすぐに覚えるくらいに賢い仔だといいます。 ただ、室内でネグレクトされていたため、外の世界を知らず、最初はちょっとした生活音にも震えていたそうです。預かりさんは早朝4時に起きて、まだ他の人が来る前の、静かな海岸を散歩させたり、職場や旅行などにも連れ出してくれ、普通の生活にもどんどん慣れていきました」 預かりさんと呼ばれる「預かりボランティア」は、「保護活動をする中で本当に大切な存在」だと、坂上さんは力を込める。 「ハクの預かりさんは、それ以前にも猫の預かりをしてくださっていました。保護っこたちの境遇や気持ちに寄り添い、それぞれに合ったかたちで育ててくださる方です。ワタデキでお願いをしている、ほかの仔の預かりさんたちも同様で、『ワタデキ出身の保護っこは、人を信頼している、なつっこい仔ばかりですね』と言われることが多いのは、“うちの仔”同様に育ててくださる愛情あふれる預かりさんたちのおかげ。里親さんが決まり卒業するとみなさん“うちの仔ロス”になるのも、それだけたくさんの愛情をかけてくれた証拠です。本当にありがたく思っています」 その後、時間を置かず、ハクの里親になりたいと申し出てくれる家族も出てくるのだが、「ワタデキでは初めてのケース」(坂上さん)となる思わぬ事態が起こる。 長年里親を探す活動をしてきた坂上さんが悩みに悩んだというその事態とは? 後編「『これ以上散歩はできません』多頭飼育現場から救出された秋田犬が譲渡先から戻った理由」でお伝えしたい。
坂上 知枝(動物支援団体「ワタシニデキルコト」代表)/長谷川 あや