「太平洋戦争敗戦」直後の「日本」に追い打ちをかけた「南海トラフ巨大地震」…そのあまりに「甚大すぎる被害」
持ち出すものは「いのち」だけ
昭和南海地震における津波は、房総半島から九州に至る沿岸に襲来した。最も津波高が高かったのは紀伊半島南端に位置し和歌山県東牟婁郡串本町(ひがしむろぐん くしもとちょう)の北にある袋港(ふくろこう)で、6.57メートルの津波と記録されている。この津波の特徴は、「第1波到達の早さ」である。前述した和歌山県串本町には、地震発生後約10分で第1波が襲来。また、和歌山県田辺市と高知県安芸郡東洋町には地震後約15分で第一波が到達している。 安政南海地震で得た教訓として高知県須崎には津波に関する伝承があったという。それは「大地震後、必ず津波が来るが、その津波は地震後直ぐ来るのではない。ゆっくり飯を炊くだけの余裕があるから、あわてず落ち着いて充分の用意をして避難せよ」(南海大震災誌)というものだった。しかし、昭和南海地震の津波にその言い伝えは当てはまらず、それを信じた人は、地震後15分ほどで押し寄せた津波で逃げ遅れた可能性もある。 災害はどれも同じではない。その都度顔(様相)が違う。ひとつの災害の教訓が次の災害に当てはまらない場合もある。地域によっては、「津波はいったん引いてからやってくる」という言い伝えもあるが、それは必ずしも正しくない。引いてから押し寄せてくる津波もあれば、いきなり大津波がやってくる場合もあるからだ。そうした俗説にとらわれず、最悪を想定して(地震後津波はすぐ押し寄せると思って)行動する必要がある。 現在想定されている南海トラフ巨大地震の想定津波最短到達時間で、1mの津波高第1波が一番早く到達するのは、静岡県静岡市清水区と焼津市で、最短で地震発生2分後とされている。そのほか和歌山県東牟婁郡太地町と串本町で、最短で地震発生3分後、高知県室戸市と安芸郡東洋町で最短5分。その時34メートルの津波が押し寄せると想定されている高知県幡多郡(はたぐん)黒潮町に、1メートルの津波高第1波の最短到達時間は地震後10分と想定されている。これは内閣府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が公表している数値だ。 全体として静岡県、和歌山県、三重県、高知県、徳島県の外洋に面した多くの地域が、最悪の場合、1メートルの津波高第1波の最短到達時間が10分以内と想定されている。これはあくまで1メートル津波高第1波の最短到達時間であって、一定時間後の津波高はさらに高くなる。例えば静岡県下田市の場合、1メートルの津波は地震発生最短13分後と想定されているが、それから4分経過した17分後には20メートルの津波高と予測されている。これはあくまでも津波到達予測時間であるが、南海トラフ巨大地震の震源域が陸域に近い分、津波が早く到達する可能性が高いとみられている。 ともかく、海岸近くにいて地震の揺れが収まったら、「持ち出すものはいのちだけ」「遠くの避難所より近くの高いビル」と思って、一目散に高台に避難することが大切である さらに連載記事<「西日本」が壊滅する…まさに次の国難「南海トラフ巨大地震」は本当に起きるか>では、南海トラフ巨大地震について引き続き解説します。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)