2030年でも未完了…東京都を取材「なぜ浄水場の耐震化は進まないのか」:放置された浄水場の耐震強度不足(2)
元幹部職員が指摘する「硬直した体質」
また、水道局の担当者は取材に対し、工事を早めるには予算上の限界があることも口にした。元幹部職員はこれについても、発想を転換して乗り越える選択肢もあったはずだと指摘する。 「こうした事態であれば全体計画を大幅に見直したうえで基金の取り崩しや起債を考える手段もあります。水道局は水道料金による独立採算で運営しているので、一般会計からの拠出は通常は考えられませんが、都民の命を守るには例外的措置も検討の余地があったかもしれません」 耐震化工事がここまで長期間にわたって実施されなかった理由は何なのか。元幹部職員は、一度決めた計画を容易には変えられない硬直した体質が原因の一端ではないかと見る。 「阪神・淡路大震災後、耐震診断が実施された1998年度ごろは、都民への『安全でおいしい水』の供給を実現する高度浄水処理の導入が水道局を挙げて取り組む最大の課題でした。そこに多くの予算とマンパワーをかけていましたから、浄水施設の耐震化工事に割けるリソースはなかったのでしょう。2013年に高度浄水処理の導入が完了した後も、管路の耐震化などもともと決まっていた計画を進めることに固執してしまった。国内最大の水道事業体である東京都水道局という組織において、上層部をはじめとする歴代の担当者が決めてきた計画を自分の代で軌道修正するというのは、相当覚悟のいることです。水供給の大もとである浄水場の耐震性が脆弱であるという、『不都合な真実』に、見て見ぬふりをしてしまったのではないでしょうか」 取材に対応する東京都水道局からは、むやみに都民の不安をあおってほしくない、という意識が感じられた。だが、本来は浄水施設の耐震性不足などの潜在的なリスクをデータも含め明らかにしたうえで、一時的に利便性を犠牲にしてでも、あるいは税金を投入してでも耐震化工事を早めるべきかどうか、都民自身にも当事者として考えてもらうべきではないだろうか。 この後、東京都水道局には、もう1つ重要な質問をぶつけた。元幹部職員がもっとも懸念していた、「2つ以上の浄水場が同時に停止する事態」に対してはどう備えているか、という点だ。はたして水道局の答えは──。 (第3回へ続く) 取材・文:POWER NEWS編集部 <「東京都の4大浄水場の耐震性が不足している主な設備」の表は、ページ下部の【関連記事】リンク参照>