2030年でも未完了…東京都を取材「なぜ浄水場の耐震化は進まないのか」:放置された浄水場の耐震強度不足(2)
給水制限は「信用の失墜」につながるのか
もう1つ、工事を阻む壁になっていると思われるのが、耐震化工事のために一時的にでも断水や給水制限を行うことによって都民からの批判を受けることに対する抵抗感だ。 そもそも日量100万立方メートルを超えるような大規模な浄水場を停止して、他の浄水場でバックアップしながら耐震化などの工事をすることは難しい。工事を進めるためには、対象となる給水エリア内での給水制限や一時断水などの措置が必要となる可能性があるのだ。水道局の担当者は次のように話した。 「原水ポンプ所などの施設にしても、そこの耐震化工事をするには水を止めないとできないので、普通の給水ができなくなってしまう。都民に対してある程度の期間、応急給水でやってくださいと言えるかというと、そこは難しいですよね。給水制限をかけるというのは、すごい話になりますので。われわれとしては、そういう判断はありません」 都民に給水制限を敷くことはあり得ない、という強固な前提があるようだ。だが、水道局に在籍した経験があり浄水場の構造に詳しい元東京都幹部職員は、水道局の考え方には大事な視点が欠落していると指摘する。 「水道局内の感覚では、給水制限を敷くことは『信用の失墜』につながると考えられていて、確かに容易なことではありません。水道局では浄水場の補修や事故などのリスクによる能力低下を加味しても最低限確保すべき配水量を出せるよう、全浄水場の施設能力を常時、日量で660万立方メートル確保しながら耐震化を含めた工事を行っています。この量を下回った場合、朝霞などの大規模浄水場で全停止に至る事故が発生した際に、夏場の水使用量の多い時間帯に一部地域で断水などが発生する恐れがあります。それを防ぐために、一定時間給水制限をかけなければならなくなりますが、そのリスクは絶対に回避するという考え方です。水道事業者が供給責任に対する強い意識を持っているのは当然です。しかし、給水制限できないから工事が進められないというのは、必要な耐震化工事が終わるまで首都直下地震は発生しないという前提に立った考え方です。それでは想定される最悪の事態には対応できません」 工事を前倒しするには、「給水制限はあり得ない」という前提からの発想の転換が必要だという。 「浄水場の耐震化工事を前倒しして行うためには、給水制限による一時的な給水圧力低下も覚悟しなければならないのではないでしょうか。一時的に浄水場を停止しなければならないような場合、他の浄水場からのバックアップや浄水場や給水所の配水池にためられている水の上手な運用で断水や水圧の低下を少なくすることも可能ですから、1年間も応急給水でということはないはずです。もちろん、こうした措置は都民の理解を得るためにもすべてを公表したうえでなければできませんが、選択肢から除外すべきではありません」