自由ではなく不安だった…まひろの燃え尽き症候群を救った周明、再登場した意義を考える【光る君へ】
自分を「藤式部」として見ない久々の存在・周明
そういった不安の解消は、現在だったら心理カウンセラーにでも相談するだろうが、その絶好の相手がまひろの前に現れた。そう、越前時代に国際ロマンス詐欺を仕掛けた周明だ。詐欺目的で近づいたものの、実際はまひろにフォーリンラブしちゃっていた周明。当時は宋人にも日本人にもなりきれない焦りから生まれる、頑なさが印象に残った。しかし大宰府で薬師&通時として重宝され、安定した居場所を見つけた今は、本来のやさしさを取り戻したのか、グッと相談しやすい空気感となっていた。 またまひろにとっても、自分を「藤式部」として見ない他人に会うのは久々だったはず。道長は自分をまひろとして見てくれるが、今のむなしさの原因がほぼ道長くん由来とあっては、相談するわけにもいかない。そんなときに眼の前に現れた、自分のことをほぼ肯定してくれて、大作家先生という色眼鏡で見ることもなく、そして「俺のことを小説にしたら?」とかすっとぼけたことを言ってくる男性は、この重苦しい胸の内をひけらかすのにピッタリの存在だったのだろう。 大宰府で周明が再登場するというのは、割と多くの視聴者が予想(願望とも言えるが)していたが、作家としても人間としても空っぽになったまひろの器に、再び水を流し入れるような存在になるとは。直秀(毎熊克哉)が、当時の虐げられた庶民の姿を代表する存在だったとしたら、周明はまったく知らない土地からやってきて、まひろの想像もしていなかった扉を開いていく水先案内人として描かれたキャラクターだったのかもしれない。 だからその周明が、ラストで凶弾ならぬ凶矢に倒れるのは、単に主人公が好意を持ってる男性が死んじゃう! というショックだけでなく、再び開きかけたまひろの新しい世界が、無惨に閉ざされてしまうのか? という絶望もある。来週は周明の生死の行方だけでなく、道長の妻・倫子(黒木華)が、道長の想い人がまひろだったことに、とっくに気づいていたと言わんばかりの予告の言葉が、非常に気になるところ。どうやらまひろの残りの人生、吉高由里子がXなどで予告している通り、まだまだ波乱がありそうだ。 ◇ 『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。12月8日放送の第47回「哀しくとも」では、「刀伊の入寇」の対応について朝廷の意見が激しく分かれる一方、大宰府から戻ったまひろと道長の再会が描かれる。 文/吉永美和子