レスリングが再び五輪競技から外れる危険性は?
その不安の理由は2つの問題点だ。 ひとつは、試合進行について。連日、午前10時に試合が開始され、決勝まですべての試合が終了するのが午後7時から8時。昼に休憩時間は設定されていない。試合が数珠つなぎに長時間続く現象は、世界選手権でも見られた。観戦者への配慮がなさすぎる試合進行だ。 ふたつめが不明瞭な裁定である。 レスリングの試合では、勝敗の決め方がいくつかある。もっともわかりやすいのはフォールで、相手の両肩をマットに1秒しっかりつけたときだ。次がテクニカルフォールで、フリーの女子は10点差、グレコは8点差をつけるとその時点で勝ちが決まる。次が、得点差による勝敗で、ここまではレスリングに詳しくなくても見ているだけで理解しやすい。 ところが、今大会はコーション(警告)や審判員を監督するジュリーによって勝敗が左右される試合が目立った。もっとも極端な形であらわれたのは、男子フリースタイル57kg級の2回戦、高橋侑希(山梨学院大)と樋口黎(日本体育大学)の試合だった。抜きつ抜かれつの展開で、残り時間30秒を切っても点数が動いていた。そして、高橋が追い上げるも届かず試合が終了した。すぐさま高橋側のセコンドがビデオ判定を要求してチャレンジ制度を利用したため、試合の判定はビデオ審議を終えるまで延長された。 ビデオ審議の結果、樋口は試合着を故意につかんだ反則をとられ3つ目のコーションを与えられ、コーションの累積による敗戦が決まった。 この判定が決まった瞬間、会場内はどよめいた。わけがわからなかったからだ。全日本選手権の最終日で、吉田沙保里や伊調馨も出場する日だったとはいえ、日本のレスリングの大会で観客席を占めるのは、ほとんどがレスリング関係者だ。それでも、わけがわからないと首をかしげる判定だった。 しばらくのち、今大会のジュリーをつとめた斉藤修審判長から「チャレンジは疑惑部分のビデオをすべて見直すもの。ビデオにはしっかり、樋口選手がウェアを故意につかんでいることが確認できた」と解説があったが、故意であったかどうかの判別をどのようにしたかの説明はなかった。 試合の勝敗がどのように決まったのか説明するのに、これほどの手間を費やさねばならないのは判定のシステムそのものに問題があるのではないか。1年前に目指したはずの「観客へのわかりやすさ」から離れてしまったのではないか。