<E-1>MVP男小林悠は中国戦代表初ゴールでW杯サバイバルに生き残ったのか
小林は昨年9月の招集時に「ハリルノート」を受け取っている。つまり、門外不出の内容のひとつである『Aがワンタッチで落としたパスを受けたBが、裏へ走り込むCへパスを送る』のうち、AとCを小林が兼ねた応用・発展形と言っていい。 加えて、ゴールまでの過程には接触しながらも転倒しなかったフィジカルの強さ、背中越しにゴールの枠をとらえる類い稀な得点感覚も働いていた。指揮官が続ける。 「川崎で素晴らしいシーズンを送り、より得点できるようになった。以前はやや軽かったが、いまはアグレッシブに戦える。フィジカルコンタクトも強くなったし、守備に戻ってプレッシャーもかけることもできる。今後もいいパフォーマンスを続ければ、私は(小林を)見続けるだろう」 1トップとしてスタミナを削りながら、味方のために体を張り続けた。決して大柄ではない177センチ、72キロの体で必死に戦う姿に、後方から見ていたMF今野泰幸(ガンバ大阪)は心を震わせる。 「(小林)悠が何度も起点になってくれたので、北朝鮮戦と比べて、そこから2次攻撃3次攻撃につなげられる場面が多かった」 右ウイングに回ってからも、自らの判断で中央寄りのエリアでプレーする時間を増やした。その結果として、来年のワールドカップ・ロシア大会へとつながる価値あるゴールをもぎ取った。 「堅碁が真ん中で体を張ってくれると思っていたので、その周りでプレーするイメージでした」 1トップはほぼ当確の大迫勇也(ケルン)に杉本健勇(セレッソ大阪)が食らいつき、川又や金崎夢生(鹿島)らが一発逆転を狙う。浅野拓磨(シュツットガルト)と久保裕也(ヘント)が争う右ウイングには、伊東が割り込もうと奮起している。 指揮官をして「23人が誰になるか、いまは誰にも約束できない」と言わしめるロシア行きの切符争いで、川崎を悲願の初優勝に導いたMVP&得点王が2つのポジションで強烈な爪痕を残した。 (文責・藤江直人/スポーツライター)