<E-1>MVP男小林悠は中国戦代表初ゴールでW杯サバイバルに生き残ったのか
川又が強引に放ったシュートは相手選手の間をすり抜け、最終ラインの裏へ飛び出していた小林の目の前にこぼれてくる。スピードを落としていなければ、おそらくオフサイドになっていた。 直後に右足でプッシュしたシュートは、相手キーパーに防がれた。その際に接触してバランスを崩すも、ゴールに背を向けた状態で何とか踏みとどまった。見えていたのはボールだけだった。 「自分の位置とボールの位置を考えて、感覚だけで打ちました」 ゴールが見えないからといって、躊躇している時間はない。体を時計回りの方向に回転させながら、利き足とは逆の左足を振り抜いた。無人のゴールに、ボールが吸い込まれていくのが見えた。 「何とか最後に決められてよかった。ホッとしました」 国際Aマッチ出場10試合目で決めた待望の初ゴール。喜びよりも安ど感を募らせていた小林を称賛したのがハリルホジッチ監督だった。試合後の公式会見で、川又の投入後は右ウイングに回っていた30歳の今後に思わず言及している。 「サイドでも真ん中でもプレーできるので、かなり高いレベルで代表候補に入ると思う」 指揮官を珍しく饒舌にさせた理由は、前線の選手たちに要求してきた2つのプレーを、小林がハイレベルで実践していたからだ。まずは「ワンタッチで簡単にボールを落とす」ことだ。 昨年9月以降、指揮官は代表に招集した選手たちに、十数ページで構成されるA4版の小冊子を手渡している。名づければ「ハリルノート」となる誌面には、目指すべきプレーが記されている。たとえば攻撃面における約束事のひとつに、こんな記述がある。 「相手ゴールに対して背を向けてボールを受けるときは、簡単にワンタッチで落として3人目の選手が裏を狙う」 後方の川又へすらしたプレーが、まさに「ワンタッチで簡単にボールを落とす」となる。加えて、今大会へ向けた合宿をスタートさせた4日から、ハリルホジッチ監督は攻撃陣へ「とにかく背後に行け」と何度も口にしてきた。これが2つ目の要求だ。