「日本の城のような石積みの家に住みたい!」。難題に対して建築家が考えたのが、まさかのメキシコのピラミッドのような家…
住み手の希望は、城郭のような石積みの家に住むこと。その夢を叶えるために、建築家の宇野友明さんは、まず日本の伝統的な石工の仕事を深く調査し学び、真摯に向き合いました。 【写真集】建築家・宇野友明が手掛けた石積みの家。日本の城のような家をつくるための秘策とは? 熟練の職人と出会い、美濃石でつくり上げた力強い建築は、最高の安息と充足感が得られる、美しい暮らしの拠点となっています。
日本の城のような石積みの家に住みたい
「子供の頃から石垣が好きで。できることなら、いつかその内部に住みたいと思っていました」と語るのは、住み手の林さん。医師として多忙な毎日を送る林さん夫妻が新居を計画するにあたり、ご主人が何よりも望んでいたのは日本の城のような石積みの家。安土桃山時代に活躍した石工集団、穴太衆(あのうしゅう)の仕事に深く感銘を受けた林さんは、この長年の夢を建築家の宇野友明さんに託しました。
伝統的な野面積みを住まいにどう生かすか
林さんからのリクエストは、伝統的な野面(のづら)積みによる「積んだ石が自立する家」。とはいえ、城郭の基礎や石垣に用いられてきた日本古来の石積みは土木の一種であり、建築として存在していません。宇野さんがその歴史や工法への知識を深めていけばいくほど、用途の異なる住宅という建築の一部として、石積みをこの建物にどう生かしていくかが最大の課題になったを使ったといいます。
石積みが内外をシームレスにつなぐ
実際のプランでは、林さんが望んだ石積みが内外でシームレスに存在しているのが最大の特徴。水庭と中庭を石のピラミッドで囲み、プライバシーと開放感を実現しました。 内部には水盤を眺めながらリラックスできるバーのような趣のあるギャラリーなど、エンターテインメント性にも富んでいます。ここからLDKへと誘われ、地階には個室を集約。傾斜のある角地に立つ象徴的な外観は、周辺のランドマークとしても存在感を放っています。
プランのきっかけは、メキシコのピラミッド
宇野さんがこのプランに辿り着いたきっかけは、メキシコのテナユカのピラミッド。建築と呼ぶには不十分ですが、日本の石積みよりは造形的にかなり建築の要素が強いのだそう。「これを美濃石を使った野面積みで再現して、″日本方式のピラミッド”を完成させようという考えが浮かびました」と宇野さん。 石積みは当代随一の石工職人、関口佳孝さんが担当。関口さんは、碁盤に石を置くように緻密に数手先までを読みます。じっくりと石を眺め、選別し、積み上がった模様をイメージ。「石と対話する」時間こそが、最も大切なのだといいます。