HTCの新型HMD『VIVE Focus Vision』の実力やいかに コスパに優れた他社製品を上回れるか
■10月18日に発売となったVIVEの新デバイス『VIVE Focus Vision』 【画像】10月18日に発売された『VIVE Focus Vision』 HTCは10月18日に『VIVE Focus Vision』を発売した。本体価格は16万9000円で、「手頃な価格」とはいえないものの、VIVEならではの拡張性とスタンドアロン型の利便性を兼ね備えたところがみどころで、別売りの『VIVE Ultimate Tracker』『VIVEフェイシャルトラッカー』を購入することで、自由度の高いVR表現を楽しめる。 昨今のVRヘッドセットのトレンドとして、スタンドアロン型ヘッドセットの需要は、手軽さと性能のバランスが求められる個人ユーザー層を中心に急成長を遂げており、この市場をリードしてきたのがMetaの「Quest」シリーズだ。 一方でHTCといえばかねてより個人はもとより、法人向けに高品質なVRヘッドセットを販売してきたメーカーなだけあり、VR上の表現を幅広く楽しむためのヘッドセットや周辺機器を取り揃えているのが強みであった。 そんな中で発売されたスタンドアロン型のFocusシリーズの最新作『VIVE Focus Vision』。MR機能も搭載され、「Vision」と名前に入っているあたりに野心的な香りも感じるこのヘッドセットは一体どのようなみどころがあるのだろうか? ■『VIVE Focus Vision』の実力はいかに? VIVE Focusシリーズの新型『VIVE Focus Vision』のみどころとなるのは、スタンドアロン型かつ、フォービエイテッドレンダリングに対応した、5Kの高解像度ディスプレイだろう。 フォービエイテッドレンダリングとは、ヘッドセットに内蔵されたアイトラッキング機能によってユーザーが注視している箇所を検知し、その中心からレンダリングする技術のこと。これはSIEの『PS VR2』や『Apple Vision Pro』にも搭載されている技術で、デバイスの負荷を軽減しつつ、高品質な描画を実現できるというものだ。 ディスプレイは片目あたり2448×2448と、人気の『Meta Quest 3』よりも高解像度。しかし、レンズにはフレネルレンズを採用。『Quest 3』や『VIVE Flow』ではより薄型なパンケーキレンズを採用していたことを考えると、疑問に感じるかもしれない。 筆者も『HTC Focus Vision』には触れてみたが、画質の問題よりも重量の方が気になった。フォービエイテッドレンダリングを採用していることもあってか、画質自体に不足は感じなかったのだが、本機はその設計上、スタンドアロン型としては重量が重くなるため、長時間の使用を前提とした場合は疲労に繋がりそうなところが気になる。 とはいえ、毎日長時間被ったまま友達と遊んだり、そのまま寝たりするような場合には向かないかもしれないが、そうでもなければ慣れる範疇ではあるはず。このあたりはユーザーによって向き不向きが分かれるところだろう。くわえて、VIVEシリーズらしい堅実な作りになっているためフィット感は良く、メガネスペースの広さなども相まって着け心地自体は快適であることは補足しておく。 「『VRChat』やVRゲームで遊んでみたい」という一般ユーザーからすれば「『Quest 3』でも十分なのではないか?」と感じるだろう。しかし、『VIVE Focus Vision』ならではの強みはなんといっても、VIVEならではの拡張性だ。 別売りの『VIVEトラッカー Ultimate』、『VIVEフェイシャルトラッカー』を購入することで、フルボディトラッキングはもちろん、顔の表情もトラッキングすることができる。またフォービエイテッドレンダリングのために搭載されているアイトラッキングは『VRChat』などでも使用可能。アバターを用いた細やかな表現・パフォーマンスなどにおいては大きな差となるだろう。 ■VIVEがいまスタンドアロン型のヘッドセットを発売したワケ ところで、冒頭からお伝えしている通り『VIVE Focus Vision』はスタンドアロン型のヘッドセットだ。デバイスに装着されたカメラで位置を測定するインサイドアウト方式を採用しているので、従来機でよく使用される「Lighthouse(赤外線センサーを使用した規格)には対応していない。筆者はかねてよりVIVEを利用しており、赤外線方式のトラッカーを使用してきたのでそこは少し寂しいところだが、ベースステーションが不要になるなど、一般ユーザーにとっては手軽な面が多い。手軽なVR体験を求める一般ユーザーのニーズの増加を考えると、VIVEがこうした製品を開発するのは正しい姿だろう。 またもうひとつ特徴的なのが、本機はPCと接続する際の方式としてDisplayPortを採用していること。映像入力用ポートといえばUSB-CかHDMIであることが多いが、DisplayPortを採用することで、高解像度・高リフレッシュレートな映像を実現しているという(VIVEは「ロスレスPCVR機」を謳っている)。高解像度ディスプレイでコンテンツを存分に楽しめるようになっているのはうれしい点だ。 なお、リフレッシュレートは発売時点では90Hzだが、2024年内に120Hzへのアップデートを予定しているという。 VRでアクションゲームをよくするという方や、美しい映像、迫力のあるコンテンツを体感したいという用途に向いているはずだ。ただし、9月の発表会時点では90Hzでのゲーム体験にとどまったため、明確な優位性を感じるほどではなかったことも付け加えておく。 『VIVE Focus Vision』は利便性の高いスタンドアロン型のVIVEデバイスとして、そして同社製品ならではの拡張性を兼ね備えた製品と言えるのではないだろうか。 ■他社製品と比べると? 繰り返しになるが、『VIVE Focus Vision』は本体価格が16万9000円(税込)と、HMDとしてはやや高価な価格帯。そのため、手頃な価格が人気の『Quest 3』や『PICO 4 Ultra』などと比べると決して「初心者向け」とは言えない。一方で、同じように、初心者向けというにはやや高価な価格帯のVRヘッドセットである『Bigscreen Beyond』や『MeganeX』と比べると、軽量化や着け心地に特化している分重さが気になるところ。 とはいえ、目線や表情も自在に動かしたい方には、VIVE Proシリーズよりも安価に購入できるデバイスである。くわえて、「LightHouse」が不要なスタンドアロン型なので初期投資の面でも優しい。アイトラッキングだけならば『Meta Quest Pro』もあるが、こちらは販売終了がアナウンスされているため、将来のことを考えると『VIVE Focus Vision』が断然おすすめだ。 ■VRChatで豊かな表現をしたい方におすすめ 『VIVE Focus Vision』は、VIVEの拡張性、スタンドアロンの利便性を兼ね備えたデバイスなので、VRChatで踊ったり、アイトラッキングで目線を動かしたり、豊かな表現に興味がある方におすすめだ。特に、アイトラッキングに対応するヘッドセットは少ないため、『Quest Pro』からの買い替えを考えている方にもよいかもしれない(かくいう筆者もQuest Proユーザーであり、かなり心が揺らいでいる)。
SASAnishiki