【名馬列伝】稀代の“貴婦人”ジェンティルドンナ。三冠馬オルフェーヴルに臆さない闘志、有終の美を飾った有馬記念…最強牡馬たちとの激闘譜<後編>
これまでの2年は、ジャパンカップを終えたら有馬記念をパスして休養に入ってきたジェンティルドンナ。そのせいもあって、最後の一戦が未経験の中山。それもトリッキーな2500mコースに挑戦するという意味で、いくらかの不安材料もあった。しかし、石坂調教師は「ジェンティルドンナはコースなど気にしない強さがある」と強気の発言を繰り返した。 その思いは、またも実る。ゴールドシップ、エピファネイア、ジャスタウェイ、フェノーメノ、デニムアンドルビー、ヴィルシーナという強豪が顔を揃えた大一番。天皇賞(秋)で2着した戸崎圭太に手綱を託し、単勝4番人気で出走したジェンティルドンナは、4番枠という利を生かして早々と3番手をキープする。 直線へ向くとエピファネイアが先頭に躍り出るが、ジェンティルドンナは外からじわじわと脚を伸ばして、それを交わしてわずかに先頭へ。そこへトゥザワールド、ゴールドシップ、ジャスタウェイらが激しく迫るが、ジェンティルドンナは最後まで粘り通し、2着のトゥザワールドに3/4馬身差をつけて快勝。自らの花道をグランプリ制覇という華やかな勝利で飾った。GⅠレース7勝という記録は当時、父ディープインパクトと並ぶ最多勝利タイ記録だった。 レース後には引退式が行なわれ、ジェンティルドンナはドバイシーマクラシックを制した際の馬着を付けて、ファンに別れを告げた。そして、2014年度のJRA賞では最優秀4歳上牝馬とともに、2度目となる年度代表馬のタイトルも手にしたのだった。 ジェンティルドンナの競走生活は、トレセンに入厩したばかりの2歳時に石坂正が感じた「牝馬の枠には収まり切らない馬」というインスピレーションを一つひとつ現実化していくような4年間だった。そのチャレンジと実績の積み上げが歴史的名牝との評価を引き寄せたのである。 2015年から繁殖入りしたジェンティルドンナは、18年産のジェラルディーナ(父モーリス)が22年にエリザベス女王杯を制し、ついに産駒からGⅠホースが誕生した。15歳にはなったが、まだ彼女の子どもたちから目を離すことができない。 文●三好達彦