「今後の日本のドラマの方向性を示唆」…タブーに挑戦する朝ドラ『虎に翼』が担うNHKの特殊事情
以上のように「生理」は、汎用性が非常に高いテーマであることは証明済みである。これをうまく取り込まないという選択肢はない。そういったテーマが、地上波だけではなくコンテンツを配信に運用した際に視聴者に刺さるからである。 一例を挙げよう。最近配信が開始されたNetflixのドラマ『恋愛バトルロワイヤル』は、恋愛ドラマという体を取りながら、そこに「教育格差」や「学校の在り方」といった社会問題を織り込んでいる。恋愛のかたちも、レズビアン(女性同性愛者)やゲイ(男性同性愛者)などさまざまだ。そしてそういった身近な〝リアリティ〟が受け、視聴者の支持を得ている。 地上波ドラマは何となく気軽に見られるものが多い。エンディングも「バッドエンド」より「ハッピーエンド」が好まれる。「リアル」を隠し「夢」を描くのが地上波ドラマだ。 しかし、地上波視聴率が頭打ちどころか下落に歯止めがかからない状況のいま、「夢」を描いていては視聴者の興味をひくことはできない。目の前にある問題や事件を〝リアルに〟描くことで、視聴者の関心をくすぐろうとする。そのいい例が『虎に翼』なのだ。『虎に翼』は今後の日本のドラマの方向性を示唆していると言っても過言ではない。 ◆『虎に翼』『あさイチ』『おはよう日本』が担う〝公共放送〟としてのステイタスとプレゼンスとは…… 最後に、③の「公共放送としてのステイタスを顕示するため」であるが、これには国際社会におけるある数値が関係している。 世界経済フォーラム(WEF)が今年発表したグローバルジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)である。そのランキングにおいて、日本は146ヵ国中118位と前年の125位からは順位を上げたものの、依然、先進7ヵ国(G7)では最下位に留まっている。他国と比べ最も男女格差が開いたのは、政治や経済分野での女性の参画率、管理職比率であった。 そんななか、NHKは’21年からプロジェクト「50:50 (フィフティー・フィフティー)The Equality Project」に参加している。このプロジェクトはもともとイギリスの国営放送BBCが提唱したもので、番組に出演するキャスターや記者、専門家らの男女比を50%ずつにすることを目指す。 賛同したNHKは、日本のテレビ局では唯一参加している。しかも、『虎に翼』は『あさイチ』や『おはよう日本』などとともにその該当番組の1つとなっている。「生理」の話題も「ジェンダー平等の実現」の課題と深く関わっている。SDGsへの貢献を誓うNHKとしては、無視できないどころか、強く押し出すことで「ジェンダー平等の実現」に貢献しているとアピールしたいところだろう。 それは「男女参画」という点において日本の国際社会における地位が失墜しているなかで、〝公共放送〟としてのステイタスやプレゼンスを国民に誇示できる大きなチャンスなのだ。 以上、NHKが朝ドラ『虎に翼』で数々のタブーに挑戦する〝NHKならでは〟の理由について分析してきたが、そんなふうにタブーに挑戦する『虎に翼』の意義について最後に述べておきたい。