「人生の黄金期は50歳から」伝説のデザイナーが人生後半から成功した納得の理由
「タイトルに共感した」「優しく包んでくれるような本」「どんどん読み進めていけました」など、読者からの共感の声が続々届いているベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(著:キム・ダスル、訳:岡崎暢子)は日韓累計35万部を突破した。本書では、「気分」をコントロールし、毎日を機嫌よくすごすために必要なことが軽やかな語り口で書かれている。本稿では、『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』の著者であり、プロダクトデザイナーの秋田道夫氏に、年齢を重ねることと機嫌について伺った。(取材・文 宮本恵理子、構成 ダイヤモンド社書籍編集局) ● 「50歳」が一番うまくいく ――秋田さんはこれまで「後悔」したことはありますか? 秋田道夫(以下、秋田) ないですね。 ――ないですか。「あの頃に戻りたい」と思ったことも? 秋田 それもないです。人生をやり直したいという願望はありません。戻れるとすれば、50歳ぐらいの年代がいいですね。 ――なぜですか? 秋田 50歳くらいが人生の黄金期に思えるからです。お金はそこそこあるし、体もよく動く。仕事も一番充実しているころですよね。見かけもそれほど老けてはいないですし。何かを始めたいと思ったときに、一番うまくいきやすいのが50歳くらいでしょう。 ――50歳に戻って、何がしたいですか? 秋田 特別な欲はなくて、ただ仕事を思い切りしたいですね。わたしは仕事が好きなんですよ。 今ふり返ると、50歳前後でいい仕事に恵まれました。「1本用ワインセラー」(デバイスタイル)のように、かなり尖がったコンセプトのプロダクトデザインを手掛けていました。 代表作と言われるような仕事をこの時期に形として残せたことが、今も続くご縁につながっています。信号機やセキュリティゲートなど、公共デザインの仕事が増えたのもこの頃でしたね。ようは50歳に戻ったからといっても特別なにがしたいわけでも無いんですね。20代に戻っても同じだし。ようは今のままでいいんです。 ● アイデアは「相手の中」にある ――よく、クリエイターの黄金期は20~30代などと言われる傾向があります。センスやアイデアが枯れる心配はないのでしょうか? 秋田 センスは枯れません。アイデアも枯れません。実際のところ、アイデアに困ったことがないんですよ。 自信満々に言い切れるのにはちゃんと根拠があって「アイデアは自分の中から湧き出るものではなく、相手が持っている」という考え方なんです。テスト対策でも「答えは問題文の中にある」と教わった人もいるでしょう。それと同じで、何をしてほしいかという答えは相手の要望の中に必ずあるんです。だから、相手から「して欲しい事」を引き出すのが大事な「アイデア」です。 クリエイターというと「自分が作りたいものを作る生き物」と思われるかもしれませんが、逆です。自分のしたいことをしちゃダメなんです。相手が望んでいることをしてあげるのが先で、その上で自分のしたいものをちょっと添えればいい。 3分の2は相手の望み通りで、残り3分の1に自分の思いを乗せるくらい。その3分の1を相手が気に入らなくて、目の前でプランを破られたとしても全然平気です。それくらいこだわりを捨てたほうがいい。仕事は相手のためにするものですから。だから、わたしはあえてデッサン画もあまり上手に描かないように、ラフに仕上げることが多いんですよ。 ――わざと上手く描かない。なぜでしょうか? 秋田 だって相手からすると、いかにも時間をかけてがんばって仕上げたような絵を出されると却下しづらくなるでしょう?「イマイチなんだけれど、こんなにきれいに描き込んでいるから……落としたら申し訳ないな」と気を遣わせるのは本意ではないわけです。 だから、落書きみたいなタッチのラフな絵を「こんな感じですかね」と目の前で何枚も描いてみせるんです。すると相手は「いくらでも描けるんだな」と気楽になって、言いたいことが言えるようになるでしょう。もちろん最初から平気で不満を言う人もいますが(笑)。 謙虚なようで、実はしたたかなんですね。「ビジネス向いていないんです」というほうがビジネスがうまくいく、そんな不思議がありますね。 秋田道夫(あきた・みちお) 1953年大阪生まれ。愛知県立芸術大学卒業。ケンウッド、ソニーで製品デザインを担当。1988年よりフリーランスとして活動を続ける。代表作に、省力型フードレスLED車両灯器、LED薄型歩行者灯器、六本木ヒルズ・虎ノ門ヒルズセキュリティゲート、交通系ICカードのチャージ機、一本用ワインセラー、サーモマグコーヒーメーカー、土鍋「do-nabe240」など。2020年には現在世界一受賞が難しいと言われるGerman Design AwardのGold(最優秀賞)を獲得するなど、受賞多数。2021年3月よりX(@kotobakatachi)で「自分の思ったことや感じたこと」の発信を開始。2022年7月からフォロワーが急増し、10万人を超える。著書に『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』(ダイヤモンド社)、『かたちには理由がある』(早川書房)がある。
秋田道夫