求人票には「パソコン作業」とあったのに「清掃」を強要 呆れたA型事業所の実態
■何もしない行政は大問題だ A型事業所の取材では、ほかにも勤務時間の一方的な短縮や、勤務日の水増しといった問題もあると聞く。しかし、利用者がこうした実態を訴えても、行政側が動くことはまれだ。自治体の障害者福祉の担当部署からは「それは労働の問題」、労基署からは「それは福祉の問題」とたらい回しにされたと話す利用者もいた。 ユウイチさんの話では、名古屋市からの聞き取りに自宅待機を命じたことを認めていた事業所の職員は、労基署の調査に対し、一転して「自宅待機とは言っていない」と言い出したが、労基署側はこの“後出しじゃんけん”を認めなかったという。
今回は是正勧告に踏み切った労基署と、「何もしてくれなかった」名古屋市との間で対応が分かれた形だ。 しかし、是正勧告で問題が解決したわけではない。事業所からは今も賃金の支払いはない。また、是正勧告を受け、ユウイチさんは障害者への経済的虐待であるとして、居住地の自治体に通報をしたが、担当者は「言った言わないの話ですよね」と門前払いしようとしたという。 これに対し、「すでに労働審判の申し立ての準備をしています。地元の自治体にはあらゆる証拠を持って再度説明に行ったところ、ようやく『愛知県と協議します』と言われました」と語るユウイチさんの声は落ち着いていた。
一歩も引かないユウイチさんの闘志にはエールを送りたい。しかし、なぜ障害のある利用者がここまで奔走しなければならないのかとも思う。当事者ばかりに負担を強いる異様さと、「行政の不作為」こそが悪質なA型事業所がはびこる一因となっている現実を、行政機関はそろそろ本気で直視したほうがいい。 本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 :ジャーナリスト