台湾、アマゾンの衛星通信「Kuiper」導入検討中
台湾当局が、米アマゾン・ドット・コムの衛星通信サービス「Kuiper(カイパー)」の導入を検討していると、英フィナンシャル・タイムズ(FT)や英ロイター通信などが報じた。中国による軍事侵攻のリスクが高まっていると懸念し、携帯電話とインターネットの通信インフラを強化したいと考えている。 ■ 台湾・国科会トップ「アマゾンの衛星通信が有力」 台湾の国家科学及技術委員会(国科会)トップの呉誠文主任委員(閣僚級)がこのほど外国メディアに語った。台湾通信大手の中華電信は2023年、フランスの衛星通信会社ユーテルサットの衛星通信サービス「Eutelsat OneWeb(ユーテルサットワンウェブ)」を導入した。だが、呉氏によれば、Eutelsat OneWebの通信網は、台湾のニーズを十分に満たすことができないという。 呉氏は記者団に対し、「(Eutelsat OneWebの)帯域幅が実用的なアプリケーションには狭すぎることが分かった」と語った。「私が知る限り、同社は現在、財政的な問題を抱えており、第2世代衛星の開発が遅れている」(同)という。 「欧州や北米、カナダなど西側諸国には、他にも(衛星通信の)企業があるが、現時点ではアマゾンのKuiperが最も開発が進んでいる。今後、協力の可能性があるかどうか、現在彼らと協議中だ」と同氏は付け加えた。 ただ、呉氏のコメントに対し、ユーテルサットは「我々は財政難に陥っていない。次世代衛星の開発に遅延はない」とも述べ、計画通りに進んでいると強調した。 FTによると、台湾当局は中国による軍事侵攻のリスクが高まっていると懸念し、地域強靱(きょうじん)化策の一環として、衛星通信の導入を決めた。たとえ海底ケーブルが切断されても、携帯電話やインターネットシステムを正常に稼働できるようにする。
■ アマゾン、2025年にサービス開始か アマゾンのKuiperはまもなく、多数の衛星を連携させる「衛星コンステレーション」の配備を開始する計画で、2025年には通信サービスが始まるとみられる。 アマゾンは2019年からインターネット衛星ネットワークの計画「Project Kuiper」を進めてきた。プロジェクトに総額約100億ドル(約1兆5400億円)を投じる計画で、地球上のどこでも利用できる高速ブロードバンド接続を大規模に展開したい考えだ(ロイター通信の記事)。 アマゾンは既に、3236基の衛星を地球低軌道(low Earth orbit、LEO)に配備する許可を米連邦通信委員会(FCC)から得ている。だが、その条件として2026年までに計画の半分を配備することが求められている。 そこで同社は、複数の人工衛星打ち上げ企業と提携している。2023年12月には、米起業家のイーロン・マスク氏が率いる米スペースXからロケットを調達すると発表した。このほか、米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(United Launch Alliance、ULA)や、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏率いる米宇宙開発ベンチャーのブルー・オリジン(Blue Origin)、フランス商業衛星大手のアリアンスペース(Arianespace)とも契約を結んでいる。同社はこれまでに80機の大型ロケットを確保している。 2023年10月には、同社初の試験衛星2基を載せたULAの大型ロケット「Atlas(アトラス)V」を打ち上げ、同年11月にその初期の試験通信に成功したと発表した。 ■ 台湾「スペースXのStarlinkは選択肢にならない」 だが、アマゾンにはまだ実績がなく、今後打ち上げペースを速める必要があると指摘されている。これに対し、スペースXの衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」には実績がある。既に約5000基以上が軌道上に展開されており、世界60以上の国・地域に数百万人のアクティブユーザーがいるとされる。 しかし、台湾当局はStarlinkの導入を検討していないという。その理由は、マスク氏の中国における広範な事業権益と、台湾に関する過去の発言だとFTは伝えている。 呉氏は記者団に対し、「マスク氏のStarlinkは中国とのつながりがあるため『選択肢にはならない』」と語った。マスク氏の過去の発言も障壁になっているようだ。FTによれば、マスク氏は2年前、「台湾の少なくとも一部の支配権を中国に渡して紛争を解決すべきだ」と提案していたという。
小久保 重信