天才ランナーから人気コスプレイヤーに…では“第3の人生”は? 34歳になった元日本代表・絹川愛のこれから「いまは手札がたくさんありますから」
経験から学んだ「目標を決めない」強さ
多忙な日々だが、走ることは継続してきたという。一人でランニングをする程度だと言うが、現役時代と変わらない細身のスタイルは節制を心がけている証左だろう。もし今、仮に1万mを走ったらどれくらいのタイムが出せるのか。 そう問うと、力強い答えが返ってきた。 「多分、日本選手権に出るくらいまでなら、まずは持っていけると思うんですね。ただ、そこからなんですよ。きっと『すぐにでもレースに出ます』とか、『次の世界選手権を目指します』とか、そう言った方が周り的には盛り上がると思うんですけど、そう言っちゃうと自分が苦しくなるので。私、コスプレに関してはずっと目標を決めずにやってきて、気づいたら企業の公式モデルの話とか、MCのお仕事が来るようになっていたんです。チャンスって自ずと良い流れで来るはずなんですね」 陸上もコスプレも一から始めたことだった。無我夢中で走り続けていたら、向こうの方から目標が近づいてきた。だからこそ、来るべきチャンスをものにするために、今はじっくりと足慣らしをすることが肝要なのだろう。 年齢を考えると、現役アスリートとして残された時間は少ないようにも思えるが、絹川は自らを奮い立たせるようにこう話す。 「昔は35歳くらいで確実に引退って言われてましたよね。でも今は栄養面とか医療が進歩して、現役生活が長くなった。トラックで日本記録を出して、マラソンでも活躍している新谷(仁美)さんだって私の2コ上ですし、それでも日本のトップでやってらっしゃる。だからここは焦らずかなって思ってます」 新谷もまた、しっかりとした「個」を持つアスリートだ。2014年に一度は引退して会社員となるも、およそ4年のブランクを経て現役に復帰すると、自己記録をさらに伸ばした。東京オリンピックにも出場し、今なおトップランナーとして活躍しているのは周知の通りだ。
「今の私にはいくつもの手札がある」
どこまで継続してトレーニングをしているのか、その覚悟はどれくらいなのか。安易に比較はできないが、絹川の話も決して夢物語ではないだろう。なにより、今の彼女にはこう言って笑うだけの胆力が備わっている。 「こんな話をしても、なにをオバさんがって言う人はいると思うんです。でも、いろんな経験を積んで、わかっちゃった大人は強いです(笑)。ポーカーに喩えるなら、今の私には陸上、コスプレ、会社員といくつもの手札がある。一つひとつの数字が弱くても、スリーカードやフルハウスで勝負を仕掛けることはできるんです」 一つ懸念があるとすれば、走る仲間がいないことだろうか。頼るコーチもいなければ、練習環境も整えられていない。誰かの想いを背負った方が強くなるタイプだけに、今後はどれほど周りの人を巻き込んでいけるかが鍵になりそうだ。 「ほんと、10年近いブランクがありますからね。陸上仲間とも疎遠になって……。Xでも呼びかけたんですけど、誰か一緒に走ってくれる人がいないですかね」 こう不安を語る一方で、オリンピック出場やマラソン挑戦を「まだこっそりと諦めてはいないです」と前を向く。 はたして2年後、3年後、絹川が再び、世間をあっと驚かせる日は来るだろうか。 まずは復帰となるレースを、伸び伸びと走ってもらいたい。
(「Number Ex」小堀隆司 = 文)
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