4カ月半の監禁生活から生還も…三井物産マニラ支店長「若王子さん」が帰国後に“急死”した理由
10月初めに受けた定期健診で
札幌支店長は、北海道すべてを統轄するポストで、部下は130人以上いる。取引先も多く、得意先へのあいさつ回りが終ったのは8月。さあ、これから実務に入ろうかという矢先の9月に、「食物が胃につかえる」「食欲がない」といった異状を感じ始めたのだという。 三井物産の関係者が語るには、 「本人は『おかしいな』と思いつつも、『大したことないだろう』と我慢していたようです。しかし、10月初めに受けた会社の定期健診で大腸にポリープが発見され、すぐ北大病院で手術を受けました」 1月に江尻社長などが見舞いに行った時には、病状はかなり進んでいたらしい。ただ、病気がガンであることは、最後まで本人は知らず、今月3日に東京の順天堂病院に転院した後も、「退院する時はブレザーを着るから」と言って、夫人に病院へ届けさせたほどだった。
酒豪ぶりは有名だった
若王子氏の訃報を耳にし、 「突然のことに驚きました。監禁生活のストレスが高じてガンになったのか、あるいは酒が命を縮めたか、そのどちらかではないかと思いましたね」 と語るのは、ライバル会社の商社マンで、 「というのも、若王子さんの酒豪ぶりは有名でしたから。マニラでもススキノでもよく飲んでたらしい。僕自身、銀座の超一流クラブで見かけたことがあります。たしか若王子さんが薄板貿易部長のころで、彼の周りにホステスが5、6人いて、男は彼1人。『仕事以外でも銀座で飲んでるんだなあ』と思った記憶が残っていますよ」 若王子氏の酒についての噂はいろいろある。同時に、女性についても「マニラになじみのホステスがいる」といった噂が流れ、中には、「マニラで女性とトラブルを起こし、その恨みで誘拐された」なんて説まで。
女性とのトラブルはデマ
しかし、先の美里氏によれば、これらは事実無根だという。 「『若王子氏はススキノによく現れた』とか言うけど、札幌の支店長が接待でススキノに現れるのは当然の話。まして、鉄鋼部門では接待が非常に多かったですからね。女性とのトラブルも聞いたことがありません。ホステス愛人説や夫婦不仲説が流れた時、夫人は怒って、『私が男っぽい性格だから、こんなデマを書かれるのかしら』と言ってましたよ」 それはともかく、誘拐事件の真相は今も謎に包まれている。公安当局は、「日本赤軍の口座に約2億2500万円が振り込まれた」と発表したが、こうした「身代金の秘密」や犯人像(※)なども明らかにされていない。「いずれ体験談をまとめたい」と若王子氏は語っていたが、それを果たす間もない急死だった。 ※編集部註:1991年にフィリピンの極左ゲリラ組織「新人民軍(NPA)」の5人が逮捕され、有罪判決を受けた。2010年11月には欧州に潜伏していた幹部もマニラ空港で逮捕されているが、身代金の支払いや日本赤軍の関与の有無等についてはいまだ謎が多い。
デイリー新潮編集部
新潮社