改憲へ論点すり替え懸念 韓国の非常戒厳宣布受け、緊急事態条項がやり玉に
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣布を受け、日本で議論が進む憲法改正による「緊急事態条項」新設がやり玉に挙がっている。一切の政治活動を禁じる非常戒厳と同様の危険をはらむという指摘だ。ただ、緊急事態条項は国民の権利保護や国会の機能維持を目的としており、両者の性格は大きく異なる。 「憲法秩序を非常事態と称して停止する事態は、時の権力者による権力維持のための口実にすぎないケースが大部分であることを、改めて証明しています」 衆院憲法審査会長に就任した枝野幸男氏(立憲民主党)は非常戒厳宣布から一夜明けた4日、自身のX(旧ツイッター)でこう発信した。枝野氏はかねて緊急事態条項に否定的な見解を示してきただけに、日本の改憲論議への警鐘と受け止める向きもある。 とはいえ、立民や共産党を除く自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党などが導入を目指す緊急事態条項の趣旨は、権利制限の色彩が濃い非常戒厳とは大きく異なる。 政府の権限を一時的に強める緊急事態条項のうち、緊急時に内閣が法律に代わって制定できる「緊急政令」の自民案は、「国会による法律の制定を待ついとま」がない状況と、「国民の生命、身体及び財産の保護」を条件に掲げる。緊急政令の制定時には「速やかに国会の承認を求めなければならない」とも記す。 その緊急政令の方向性は、改憲政党の間でもまとまっていない。緊急事態条項の中で最も実現性が高いとされるのは、災害などで選挙を行うことが難しいときの国会議員の任期延長だ。緊急時でも国会による政府へのチェック機能を維持することを目的としている。 自民幹部は緊急政令や議員の任期延長について「韓国の非常戒厳とは性格が異なる。国民や国会を守るものでむしろ真逆だ」と述べ、ミスリードや論点のすり替えに警戒を強める。(内藤慎二)