出水市女児死亡から5年、いまだ増え続ける子ども虐待…「小さな異変見逃さず、未然に防ぐ」へ児童福祉司倍増し、新たな児相や補完拠点も設置 残る課題は専門職の育成と地域で支える体制づくり
ネグレクト(育児放棄)と虐待認定されていた鹿児島県出水市の4歳女児が亡くなり、5年が過ぎた。有識者委員会から再発防止へ児童相談所の対応力や関係機関の連携強化を求められ、県は昨春、北薩地区をエリアとする北部児相を新設。県全体で児童福祉司を5年で倍に増やした。一方で、県内の虐待認定件数は増加が続く。人材育成をはじめ継続的な取り組みが欠かせない。 【写真】鹿児島県内の子ども虐待認定件数
北部児相は2023年4月、さつま町の北薩地域振興局さつま庁舎内に開所した。それまで鹿児島市の中央児相が管轄していた阿久根、出水、薩摩川内、伊佐の4市、さつま、長島、湧水の3町を担う。 開設によって、各役場までの移動時間は最大1時間10分程度短縮。柊山(くりやま)達郎所長によると、ケース会議の開催や同行訪問が容易になり、自治体や学校などから「相談しやすくなった」との声が聞かれるという。初年度は438件の相談・通告があり、そのうち317件を虐待と認定した。 虐待の相談や一時保護などを担当する児童福祉司は10人。深刻な事案の対応や保護者とのやりとりは精神的な負荷を伴う場合もある。所内でも情報を共有し、話しやすい雰囲気づくりを心がける。柊山所長は「関係機関と役割を分担しながら、小さな異変を見逃さず、未然に虐待を防ぎたい」と話す。 死亡事案の発生以降、県は職員増員や機構改革で児相の体制強化を図ってきた。県子ども福祉課によると、県内4児相(中央、大隅、大島、北部)の児童福祉司は今年4月時点で84人。5年前の42人から倍増した。児相の補完的役割を担う「児童家庭支援センター」も2カ所新設。老朽化が進む中央児相の一時保護所も建て替えが決まった。
■ ■ 一方、中央児相は23年度に受けた児童福祉法に基づく第三者評価で「業務に必要な知識や技術等の系統だった研修や人材育成の仕組みがない」と指摘された。 鹿児島女子短期大学児童教育学科の平本譲准教授は「人材育成」を課題に挙げる。県内の福祉司84人のうち福祉の専門職採用は24人にとどまる。一般行政職が大半で、数年で異動するためスキルの積み上げも難しい。平本准教授は「職員の専門性を高める実務的研修とともに、児童福祉の専門職を育てる仕組みが必要」と語る。 23年度の県内の虐待認定件数は3029件で過去最多を更新した。緊急性が高く重篤な場合は児相、それ以外は市町村が主に担う。市町村が関係機関を集めて開く要保護児童対策地域協議会(要対協)が柱になる。女児の事案では、関係機関の連携不足が問題視された。平本准教授は「児相と要対協が両輪となり、乳児院や養護施設、児童家庭支援センターなどとつながりながら地域全体で子どもを支える体制が求められる」と訴える。
■出水市女児死亡 女児は薩摩川内市に住んでいた2019年春、夜間に1人で頻繁に外に出ていたため、警察が保護し中央児相(鹿児島市)に一時保護の検討を求めた。だが児相は見送り、その後虐待認定。「継続指導」と決めてからは母子に一度も接触しなかった。女児は出水市に転居後、同年8月末に死亡した。母親の交際相手が自宅浴槽に放置し溺死させたとして、重過失致死や暴行の罪で起訴され、鹿児島地裁で公判中。
南日本新聞 | 鹿児島
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