「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」開幕レポート
東京・外苑前のワタリウム美術館 で、アーティスト・雨宮庸介の東京の美術館での初個展「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」が始まった。会期は2025年3月30日まで。 本展は、雨宮の25年にわたるアートの歩みを振り返り、同時に新たな実験的な作品を提示するもの。1999年の初期作品から近年弘前や石巻で発表した作品、そして最新のVR作品までの幅広い作品が展示され、その創作活動の集大成が紹介されている。 展覧会は、2階に展示される《ロッカーの入り口》から始まる。この作品は、2007年から2010年にかけて多くの展示で使用されたインスタレーションで、狭い扉を通ると、鑑賞者は自分がロッカーから出てきたことに気づく。その経験を通じ、日常感と非日常的な感覚が同時に生まれる。 2階の展示室の中央には、《長テーブルと林檎が描かれたドローイング》が展示。このテーブルは、2021年に弘前れんが倉庫美術館で行われた展覧会「りんご宇宙 ― Apple Cycle / Cosmic Seed」の際に展示した作品が原型となっている。その作品は、雨宮が過去に参加したほぼすべての展覧会の準備のために制作した約2万枚のドローイングのなかから、林檎が描かれた約360枚を選び、そのうちの100枚をライトボックスで照らし出す形式で展示された。本展では、ワタリウム美術館の会場に合わせた小さいサイズのテーブルに、雨宮の代表作シリーズ「溶けた林檎」の彫刻が並んでいる。 3階では、雨宮が本展のために制作したVR作品《VR まだ溶けてないほうのワタリウム美術館》が展示。同作は撮影から編集まですべて同館で行われ、本展開幕の数分前までに制作が続いていたという。鑑賞者はVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)を着用し、現実と非現実、そして過去と現在が交錯する瞬間を体験することができる。 雨宮によれば、VRという技術は、もともと「ここではないどこか」に人を転送することを意図して開発されたが、本展であえてそれを「どこかではないここ」に再注目させることで、現実そのものを見つめ直そうと試みているという。
文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)