「聖域」と化したタカラヅカ 経営トップの寵愛を受け、いつしか構造的パワハラの温床に 宝塚歌劇団が舞台を守るために必要なことは何か
▽グループ全体の企業風土 10月に問題が発覚して以降、阪急阪神HDはこの事案に関する記者会見を開いていない。歌劇団理事としての角氏や阪急電鉄社長としての嶋田泰夫氏らの監督責任については、調査報告書を公表した会見の中で言及し、それを受ける形でそれぞれ役員報酬の一部返上を発表した。それでも、親会社としての責任には触れておらず、遺族側が求めている再調査にも消極的だ。 歌劇団は2カ月にわたり休止していた本拠地・宝塚大劇場での公演を12月1日に再開した。収束を図りたい意向が見え隠れするが、幕引きにはほど遠い。 11月下旬、歌劇団の労務管理に法令違反の疑いがあるとして、兵庫県西宮市の西宮労働基準監督署が立ち入り調査に踏み切った。遺族側は、「過労死ライン」を超える長時間労働があったと主張。労基署が2021年に制作スタッフの労務管理を巡って是正勧告をしていたことも明らかになった。俳優の急死で公になった歌劇団の内部事情は労働問題に発展しつつある。
それでもなお、阪急阪神HDは対応を阪急電鉄と歌劇団に委ねている。 ガバナンス(企業統治)に詳しい社会構想大学院大の白井邦芳教授(リスク管理)が指摘するのは、トラブルを抱えた子会社に対し、親会社が静観し続ける弊害だ。 「歌劇団の理事長だけが辞任し、親会社の責任は明確にされていない。子会社で人権に関わる問題が起きれば、グループ全体の企業風土も同じだと思われる。阪急阪神HDは普段から歌劇団のガバナンスを管理する必要があった」 ▽パフォーマンス追求と心身安全の両立 痛ましい事案を受け、歌劇団側にも現状を見直す動きがある。組織風土の改革に向け、秋から全ての俳優と音楽学校の生徒を対象に聞き取りを続けている。年内にも外部有識者らによる委員会を立ち上げ、提言を取りまとめる方針だ。こうした取り組みがどれだけ実効性を持つか、注視する必要がある。 芸術やスポーツなど一流のパフォーマンスを追求する世界では、往々にして厳しい稽古や規律が存在する。一方、歌劇団は上場企業の一部門でもあり、株主から投資を受ける。赤字の時代からここまで成長を遂げた背景にそれらの恩恵があったことは否定できず、出資者が納得する水準の透明性が求められる。