「セブン」「イオン」の値下げを喜んではいけない…“安さは正義”が招いた大失敗を忘れるな
アサヒビールは値上げ
こうした値下げ施策の一方で、アサヒビールは缶などの資材価格や物流費の高騰を理由に、来年4月1日からスーパードライなど226品の出荷価格を5~8%上引き上げると発表した。 ほぼすべての政党が最低賃金1,500円を政策に掲げているように、人手不足の日本は、今後、中長期的には賃金はアップする傾向にある。食品やエネルギーを輸入に頼り地政学的影響を受けやすいことや原材料などの高騰傾向を踏まえると、今後、アサヒビールのような値上げ基調がスタンダードになる(ならざるをえない)と筆者は考えている。 とはいえ、消費者視点に目を転じると、中間所得者層を含め、物価高に耐えられなくなっているのは事実。各小売の値下げ対応は、それを如実に表しているとも言えるだろう。それでもグローバル的に見れば、原材料やエネルギー価格の高騰に対峙していたのは各国も同じである。海外では物価高騰がおさまりつつあるものの、日本よりも高い値で定着した国も多い。訪日した外国人観光客が、われわれにとってかなりの高価格でも、普通に買い物しているのはそのためだ(もちろん、円安も後押ししている)。日本人も、彼らの価格感覚を持てるような状況になっていくべきなのだろう。 食品の消費減税や期限付き商品券の配布などの施策も政治には求めたいが、そこはまだ見通せない状況だ。物価は上がるが、賃金が上がらない現時点では、“頑張ってお金を使う”タイミングなのかもしれない。各企業の安売りやキャンペーンを利用しつつも、自分自身の生活を豊かにすることにお金を使い、経済を回すメリハリ消費が求められる。
ラーメン屋で味玉をつけるだけでいい
例えば、日本での推し活市場は、2023年度は8,000億円を超えた。3年連続での増加だ。娯楽にお金を使えないという人には、私はかねてより「ラーメン屋で味玉をつけるだけでいい」と言うようにしている。100円~200円ほどのちょっとした贅沢でも、その数が増えれば、日本経済へ影響を与えることになるからだ。このような身近な消費額が、日本経済回復のキーになるのは間違いない。 冒頭で、日本のGDPの6割近くを占めるのは個人消費と触れたが、その個人消費の3割弱は食費だ。そして消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%(2024年1~8月)だ。これらの数字をみると、「食」でのちょっとの贅沢が、経済にとってバカにできないことがわかる。 また企業は高齢者の食の消費を後押しする企画を、今以上に推進していくべきだ。日本人の個人金融資産は、2024年6月末時点で2,212兆円と過去最高を更新し、うち現預金は1,127兆円。2,212兆円のうち約6割は、60歳以上が保有している。ビジネスとして、ここに手を打たない選択肢はない。 食費が上がって苦しい現役世代も、“味玉トッピング”的な贅沢で個人消費を後押しすれば、経済にプラスになり、長期的には自らの賃金上昇にも繋がっていく。日本人は、とにかく節約や貯蓄を優先しがち。そうした意識を変えるキッカケは、こんな些細なことでもいいのだ。 渡辺広明(わたなべ・ひろあき) 消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。 デイリー新潮編集部
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